ゲルマラジオと高校物理(1)

 

 ゲルマラジオは単純である。部品をハンダ付けして完成させるのに10分はかからない。特別な技術は必要としない。物理の原理をそのまま形にしたような存在である。そこで高校物理学習内容でゲルマラジオを見直してみた。
 今までに作ったゲルマラジオは,自宅でNHK第1と第2の2局は受信できた。ビニール線を10m程度伸ばしアンテナとし,回路のアース部分に手を触れる事でアースとしている。しかし,その他の放送局は聞こえなかった。聞こえない理由を検討した。

(1)送信所の出力  
 関東地方にあるAM放送の送信所の所在地と送信出力を調べた。NHK第1と第2が他と比較して大出力の送信所である事がわかる(表1)。NHKしか聞こえないのはこのためだ。

(2)電界強度  
 出力が小さくても送信所の近くなら聞こえるはずだ。従って電波の強さが問題である。電波(電磁波)の強さは電界強度で表す。単位は[V/m]である。電波は電界と磁界が進行方向に垂直に同位相で振動しながら進む横波である。電子工学では電界の振動の向きを偏波面と呼ぶ。物理の教科書では「偏りと横波」で説明されている。電界は送信アンテナに平行で,AM放送のアンテナは地面に垂直に立てた巨大な金属製の円筒である。従ってAM放送の電波は垂直偏波である。
 栃木県芳賀郡での電界強度のデータを検索すると,TBSラジオが電界強度マップを公表している。
      −TBSラジオのカバレッジエリア− 
 このマップからTBSラジオの電界強度は2mV/m以上である。単純計算でNHK第2は5mV/m程度は期待できそうだ。

(3)包絡線検波
  周波数の高い正弦波(搬送波という)の振幅を音声信号の振幅で変化させる方式が振幅変調である。 振幅変調の電波信号の包絡線が音声信号で,変調波から信号を取り出す回路(検波回路)にゲルマニウムダイオードが使われる。教科書では「半導体ダイオード」「整流作用」が関連する。  現在の半導体の主流はシリコンであるが,包絡線検波にはゲルマニウムダイオードが使われる。なぜシリコンダイオードが使われないのかは電圧−電流特性の違いを測定してみるとすぐわかる。  注意)2極真空管をダイオードと言う。そのためあえて半導体ダイオードと言っている。

(4)ダイオードが動作するために必要な電圧
 ダイオードに順方向に電圧を加えると電流が流れる。しかし順方向でも電流が流れ出すにはある程度の電圧が必要になる。グラフ1 はゲルマニウムダイオード,シリコンダイオード,赤色LEDの電圧−電流特性を実測した結果である。ゲルマニウムダイオードで0.15V,シリコンダイオードで0.50V,赤色LEDで1.60Vの電圧が必要である。(0.1mA電流が流れる場合)  ゲルマニウムダイオードは他の2つに比較して小さな電圧から電流が流れ始めている。このことから弱い電波でも整流作用を示すことが理解できる。逆にこの電圧以下の信号では動作しない。その結果ラジオから全く音声が聞こえない。なおラジオでは整流回路を検波回路と言う。  教科書では「非直線抵抗」または「非線形抵抗」として豆電球の例が記述されている。ダイオードも非線形抵抗を示す。最も低い電圧で電流が流れ始めるのがゲルマニウムダイオードである。


(5)アンテナの共振
  アンテナを日本語では空中線という。形状をそのまま表している。アンテナの呼び名より好きな言葉だ。アンテナは原理的に大別すると,1/2波長ダイポールアンテナと1/4波長グランドプレーンアンテナに分類できる。アンテナに高周波交流を流すと共振を起こし電磁波となって空間に放出される。受信の場合はこの逆と考えれば良い。この共振の様子は気柱共鳴と類似している。  気柱共鳴で図示する波形は媒質の変位を示している。圧力の変化を示す波形はこの図の腹と節を逆にした波形となる。同様にアンテナに示した波形は共鳴したときの電圧波形である。電流波形は気柱共鳴と同様に腹と節が逆になる。  アンテナは気柱共鳴の基本振動の状態を利用している。同じ周波数の電波を受信するアンテナの場合,グランドプレーンアンテナを利用すれば半分の長さですむことになる。なおダイポールアンテナはアンテナを水平に張るのに対してグランドプレーンアンテナは地面に垂直に立てる。AM放送の送信アンテナは1/4波長グランドプレーンアンテナである。NHK第1の放送電波の波長が500m程度あり1/4波長といえどもかなりの高さのアンテナになる。

 気柱共鳴で図示する波形は媒質の変位を示している。圧力の変化を示す波形はこの図の腹と節を逆にした波形となる。同様にアンテナに示した波形は共鳴したときの電圧波形である。電流波形は気柱共鳴と同様に腹と節が逆になる。  アンテナは気柱共鳴の基本振動の状態を利用している。同じ周波数の電波を受信するアンテナの場合,グランドプレーンアンテナを利用すれば半分の長さですむことになる。なおダイポールアンテナはアンテナを水平に張るのに対してグランドプレーンアンテナは地面に垂直に立てる。AM放送の送信アンテナは1/4波長グランドプレーンアンテナである。NHK第1の放送電波の波長が500m程度あり1/4波長といえどもかなりの高さのアンテナになる。
(6)アンテナを電源と見なしたときの特性
  電源装置の特性として,@出力電圧,A内部抵抗の2点を上げれば,実験用電源装置では@はボリュームで変えられ,Aは負荷をつないでも一定の電圧を維持するので内部抵抗は0Ωとなる。  受信用のアンテナで共振状態の1/2波長ダイポールアンテナを電源と見なしたとき,Aの内部抵抗は約75Ωになる。1/4波長グランドプレーンアンテナはAの内部抵抗は約37Ωになる。@の出力電圧は 電圧=電界強度×実効長 で求められる。実効長は実際のアンテナの長さの約半分となる。  送信アンテナを考える場合,共振状態のアンテナは純粋に抵抗成分のみになり,内部抵抗が75Ωまたは37Ωにある。この時送信機からの電力が反射せずにアンテナから送信される。  AMラジオ用のアンテナは,現実的には10m程度で,波長に対して大変短い。この場合コンデンサーと見なすことができる。参考文献1)によると、50cmの長さで5pF程度と見積もられる。

次のページへ