渡辺私塾文庫

リーフ

所蔵品目録


【3】集古十種

「はじめに」

 松平定信が老中退職後、谷文晁等に命じて、1800年、古書画・古器物図録集の木版刷全85冊として刊行したのが集古十種。碑銘、鐘銘、兵器、銅器、楽器、文房、印章、扁額、肖像、古書画の十種に分類されているので集古十種と命名されたと言われている。松平家蔵版全85冊全揃いは、現在では極めて稀少。高級古典籍古書業者の反町茂雄氏によると、昭和4年6月20日、大美術商林忠正の旧蔵品東京図書倶楽部売り立て会で、85冊全揃いが当時の金額で225円で落札されたとのことである。(反町茂雄、平凡社「一古書肆の思い出@」、1986年,184ページ)現在ではどのくらいの金額になるのだろうか。かなりの高額になるのは間違いないであろう。その時から76年経った今、同一本かどうかは別にしても、当文庫で全揃いを所蔵していることは奇蹟に近い。なお、昭和4年の落札品に、「松平定信編、初刷極上本、元箱入」と但し書きがある。強欲に身を任せて敢えて言わせてもらえれば、当文庫本も「松平定信編、元箱入」であるから、同一作品の可能性も零とは言えない。(2005年、11月18日、「はじめに」渡辺淑寛記)

T.集古十種、85冊全揃い(松平定信編、松平家蔵江戸版、奥文庫蔵書印)(写真)

 
福島県立博物館の研究(注参照)を考慮をすると当文庫本は松平定信が在世中に刊行した定本か、それに近いものであると推定しています。江戸版で85冊全揃いはまれであり、さらに松平定信の定本であるとすれば、きわめて貴重であると思われますので、研究者の当文庫本の調査研究を期待しています。
注:「集古十種」福島県立博物館 平成12年p96〜p97


@、碑銘、目録と1〜12で13冊

A、鐘名、目録と1〜8で9冊

B、兵器旌旗、1〜5で5冊
兵器甲冑、1〜12で12冊
兵器弓矢、1,2の2冊        兵器 計25冊
兵器刀剣、1,2,3の3冊
兵器馬具、1,2,3の3冊

C、銅器、1,2,3の3冊

D、楽器、1〜6で6冊

E、文房、1,2の2冊

F、印章、序目と1〜4,追加2冊で計7冊

G、扁額、目録と1〜9で10冊

H、古画肖像、1〜5で5冊
弘法大師真蹟、上下で2冊
定家卿真蹟小倉色紙、1冊
牧渓玉澗八景、1冊

I、名物古画、1冊

以上計全85冊






U. 「追記1」
 ホームページ内に、渡辺私塾文庫を開設して以来、当文庫の「集古十種」が、松平定信在世中の「定本」か、「それに近いもの」であると何故言い得るのか、という問い合わせが何度か有り、中には、専門家の、「軽々しく定本などと言うべきではない。」という意見もありました。そのような専門家にしてみれば、その非難は、次の2つの理由で至極当然の事なのでしょう。第1点、田舎の弱小文庫に、極めて稀少な集古十種が完全揃いで有るはずがない、ということ。第2点、定本かそれに近いもの、と断定する根拠が未だ専門家の間でも確立されていない、ということ。この2点の指摘は当然予想された事であり、Tの3行の文章では説明不足であることは自明です。ですから先の専門家に対しては、露程の反抗心も抱いておりませんし、かえって私の考えが整理出来たことで深く感謝しております。以下上述の2点について可能な範囲で説明したいと思います。


  1. 1800年、集古十種稿52冊(彦根城博物館蔵、かなりの加筆訂正がなされ現存の集古十種になる。今でいう見本本のようなものか。)
  2. 1822年以降、三春町本
  3. 1899年以前、佐藤文庫本
  4. 1899年、青木嵩山堂本
 彦根城54冊本の調査不能は惜しまれますが、佐藤理論を用いれば、今後発見されるであろう、集古十種版木による江戸本の全ては、虫食い状況の精査によって、年代順に正確に配列可能になります。その意味で、佐藤理論は、集古十種研究史上一大金字塔と言っても過言ではないでしょう。
 さてここで当文庫の集古十種に話を戻しますと、当文庫本の「碑銘三」は写真のように虫食いは皆無で、埋木等の修理をした痕跡も無く、三春町本より古い版本であることがほぼ証明されました。また福島県立博物館集古十種図録の各版本と当文庫本の表紙を見比べますと、集古十種稿、佐藤文庫本、青木嵩三堂本はそれぞれ異なった唐草文様であり、彦根城54冊本、三春町本、当文庫本は、写真のように横線模様で、三春町本のみが赤みが強い色合いになっています。この色合いの違いは、色焼けや印刷の問題ではない制作時の色の違いに思えてなりません。そして彦根城54冊本と当文庫本は、色合い文様とも全く同一で、彦根城本の蔵書印の使用時期の下限が1850年であることを考え合わせれば
、この2つの版本は同一時期のものと推察します。
 また、当文庫本の蔵書印「奥文庫」は(写真)、固有名詞ではなく、奥座敷とか奥医師の「奥」で、松平定信から贈呈された、松平家と縁の深いお大名が、散逸させたら事だと、「奥文庫」に永く仕舞い込んだと推測することも可能です。もしそうだとすれば、当文庫本の異常なほどの状態の良さが説明できます。
 以上のことを考慮して、上述5版本の年代順仮説をたててみました。やや実証性に欠けますが、集古十種研究家の一助になれば幸いです。

「奥文庫」について
2016年7月5日、前弘前図書館長様から、「奥文庫」は、弘前藩第9代藩主津軽寧親の印影ではないかという、有り難いご教示のお手紙を頂きました。地元の高名な文化人のご指摘であり、大変感謝しております。当文庫の集古十種全85冊は、津軽藩旧蔵品であった事が、神の啓示のように、ほぼ判明致しました。今後、弘前市の文化的催事時は、可能な限りご協力させて頂きたいと考えております。詳しい事が解りましたら逐次報告する予定です。いずれにしても、文庫開設者としては至上の喜びです。(2016年7月5日、渡辺記)
 7月6日、先の弘前の文化人様から、メールにて、再度嬉しいご教示を頂きました。第1点は、「奥文庫」の印影からして、当文庫の「集古十種」は、数ある「津軽藩旧蔵品」というより、むしろ弘前藩第9代藩主津軽寧親の専用文庫の希少な旧蔵品である、という事。第2点は、「奥文庫」は、津軽寧親の篆刻であり、津軽藩主専用文庫の旧蔵品である事は、「ほぼ判明」でなく、間違いない事である、という事。2点とも、喜ばしいご教示であり、今、心なしか胸を張っています。明後日が私の誕生日ですので、遙か遠い北の町からの、二日早いプレゼントなのでしょうか。(2016年7月6日、渡辺記)
 2016年8月6日、陸奥新報東京支社の記者が、当文庫の集古十種取材のため来訪。8月20日、前図書館長様、調査研究のため弘前市から来訪。9月5日青森県陸奥新報の第1面にかなりのスペースで「集古十種」記事を掲載して頂く。44年前名大の美学生時、名古屋の博物館で「集古十種」に邂逅し、江戸木版画本としての芸術性の高さに感動し圧倒され、いつの日か全揃い本を入手しようと決意し、26年の歳月をかけ、18年前に東京神田神保町で、幸運と強運により奇跡的に所蔵できた自慢の全揃い稀覯本であるが、芸術的価値は自信が有っても、歴史的価値は無知であった。しかし、入手時から気になっていた「奥文庫」印が、弘前藩第九代藩主津軽寧親の刻印であるとお知らせ頂き、歴史的価値も判明した。今現存している「集古十種」は、尾張徳川家、井伊家彦根藩、松平家桑名藩旧蔵品等有力大名旧蔵であるので、弘前藩は、当時江戸幕府からかなり重要視されていた証左である可能性もある。いずれにしても各旧蔵本で完本が少ない中、当文庫本が85冊全揃いである事、弘前藩主旧蔵本である事等、多くの関係者、天のご配慮に心より感謝致したい。(2016年9月5日、渡辺記)


 集古十種の年代順仮説 (2016年9月6日渡辺加筆)
  1. 1800年、彦根城博物館蔵集古十種稿 52冊(当文庫でも、「兵器類馬具」全2冊、「扁額」8冊、計10冊所蔵、見本本として有力大名に贈呈されと推定)
  2. 1800〜1830年、彦根城博物館蔵54冊本(大老を輩出した井伊家だけあって「集古十種稿」と「集古十種」初版本両方を贈呈されたと推定)、渡辺私塾文庫全揃い85冊本2016年7月、入手から18年経て、弘前藩第九代藩主津軽寧親旧贈品と判明、版木の虫食い状況から初版本と推定、虫食い皆無)
  3. 1830〜1860年、三春町本 33冊(当文庫で「古画肖像」5冊所蔵、5巻に「桑名蔵版之印」)
  4. 1850〜1870年、渡辺私塾文庫80冊本、(碑銘三の虫食い状況よりこの80冊本は、三春町本と佐藤文庫本の間であることが確定。年代は推定)
  5. 1860〜1899年、佐藤文庫本 85冊(当文庫で「名物古画」、「牧渓玉澗八景」2冊所蔵)
  6. 1899年、青木嵩山堂本 88冊(当文庫で「名物古画」、「銅器1,2,3」、「兵器 弓矢1,2」、「兵器 刀剣1,2,3」、「印章序目、1〜4、印章追加1 、2」、「牧渓玉澗八景」、「文房1,2」の19冊所蔵)
    (注1)、2,彦根城・渡辺私塾文庫85冊本と、3,三春町・桑名蔵版之印本と、3,佐藤文庫本と、4,青木嵩山堂本は、表紙で判別できる。佐藤文庫本は青木嵩山堂本より縦横1センチ大きい。(写真)
    なお、青木嵩山堂本には「銅器」とか「印章」とかの項目ごとに、巻末に「松平家蔵版」青木嵩山堂と明記されている。(写真)       (注2)、2008年1月、兵器馬具1,2,3の3冊を入手。表紙は三春町本と酷似していたため、三春町本のつもりで購入したのだが、縦が1センチ長く、紙質も三春町本と異なっているので、現在調査中。当文庫本85冊とは表紙が異なり、また明治後刷り本とも明らかに違うので、別種の江戸異本の可能性もある。 
V.「追記2」 明治後刷り本(青木嵩山堂本以外当文庫で全て所蔵)

参考のため、明治後刷り本を紹介します
なお、1の青木嵩山堂本を除いた明治後刷り本は、多少の省略部分が有りますのでご注意ください。
  1. 青木嵩山堂本、1899年(明治32年)、総目録3冊が追加されて全88冊(当文庫では19冊のみ所蔵) (写真
  2. 東陽堂支店本、1902年(明治35年)、全10巻8分冊(全8冊所蔵) (写真)
  3. 侑文舎本、1903〜1905年(明治36〜38年)、全21冊 (全21冊所蔵)  (写真) 
      他に侑文舎刊集古十種予約見本も1冊所蔵
  4. 国書刊行会本、1908年(明治41年)、全4冊、洋書版 (全4冊所蔵)  (写真)
  5. 大正時代以降では、1915年(大正4年)に芸艸堂上下2巻(上下2卷所蔵)
  6. 1980年、名著普及会全4巻(当文庫でも所蔵)5,6どちらも国書刊行会本が底本(名著普及会本は、国書刊行会本と同一本。ただし細野正信「編者松平定信とその時代」、岩間真知子「集古十種について」の2論文が第1巻巻頭に所収。)
                            (追記T,2とも、2003,8,14,渡辺淑寛記)(再追記、2015年9月25日、再々追記2016年9月6日)

W、「追記3」、当文庫所蔵江戸本

以後入手した江戸本もありますので当文庫所蔵江戸本をまとめてみます。

1,85冊全揃い本(「碑銘三」の虫食い状況から彦根城54冊本と同一時期であると推定)
(1998年所蔵、虫食い皆無)
2,80冊本(古画肖像部全5冊欠)本、「碑銘」の虫食い状況から、三春町33冊本と佐藤文庫本の間だの時期と推定
(2008年所蔵、かなりの虫食い有り。1の85冊本と比較対象出来て貴重な研究資料である。)
3,古画肖像部全5冊扁額全10冊本計15冊、表紙から三春町本に近い時期と推定(ただし、桑名蔵版之印はなく、4の「桑名蔵版印本」より縦横1センチ大きい。また紙質も異なる。)
4,古画肖像部全5冊、第5巻に桑名蔵版之印があるので三春町本に近いものと推定
5,兵器馬具全3冊、旌旗全5冊、表紙から三春町本に近い時期のものと推定(桑名蔵版之印はなく、大きさ、紙質とも3の15冊本に近い。)
6,佐藤文庫本と同一表紙本2冊(名物古画、牧渓玉澗八景)
7,印章序目1冊、表紙から三春町本に近い時期のものと推定
8,印章全7冊、表紙から三春町本に近い時期のものと推定
9,集古十種稿10冊(「兵器類馬具」全2冊、「扁額」目録、巻4〜7,8巻その1,その2,別録、扁額計8冊)
10,兵器馬具全3冊、旌旗全5冊、表紙から三春町本に近い時期のものと推定
11,鐘銘全8巻9冊、古画肖像全5冊、表紙から三春町本に近い時期と推定。(11は虫食い大)
12.銅器全3冊、表紙から三春町本に近い時期と推定。
13,、扁額全10冊(横縞が表紙全体に入っている初めての江戸本。渡辺私塾80冊本に近い刊本か。)
   兵器旌旗全5冊(上の扁額10冊本とは異本、兵器二は、佐藤文庫本で差本、他の4冊は佐藤文庫本より少し古い刊本と推定)(13は2018年12月T日入手)

3または4の古画肖像部全5冊を2の欠本に当てれば、2も85冊全揃いになり、稀覯本としての価値は跳ね上がるのだが、表紙が明らかに異なるので、稀覯本蒐集家の良心からしても、全揃い本に、本当はしたいのだがどうしても出来ない。)
                             (追記3は、2008,12,2記、2009,1,27改、2011,1,31改、2016,7,12改、2016,9,6改)   (
他に、「集古十種」扁額の写本を1冊所蔵、多分江戸期の写本か。)    

「古画類聚」(集古十種後編)明治木版画本全2冊
明治25年、松平康友、第1冊、古畫序凡例、第2冊古畫肖像人形服章一(彩色48図)
 「古画類聚」は、「集古十種」の続編で、松平定信によって、寛政9年から文化年間半ば頃に編纂された38巻。(序では寛政7年の記載がある。東京国立博物館蔵の楽亭文庫印本36巻が原本と考えられている。第29、30巻は欠本。ほかに点数は不明だが写本がある。)、「集古十種」は版本で「古画類聚」は写本だが、明治17年から、定信の系譜と言われている松平康友によって、木版色刷り本刊行が計画され、25年に2冊刊行されて、中断したままであると言われているが詳細は不明。その時刊行された2冊が、この「集古十種後編」と題された2冊。鍬形尢ム絵及び刷り(くわがたけいりん)(1827〜1909)、(江戸から明治期の狩野派画家)
 「古画類聚」については、1990年刊行「古画類聚」、東京国立博物館、毎日新聞社、全2冊が白眉の解説書。

   「集古十種関連本」 集古十種板木目録 昭和60年 文化庁文化財保護部美術工芸科

所蔵品目録

【1】アルス日本児童文庫

【2】恩地孝四郎

【3】集古十種

【4】中村忠二

【5】美術書・稀覯本・草稿・画稿・画帖

【6】洋書

【7】雑誌


【8】日本画

【9】油彩画1

【10】油彩画2

【11】版画

【12】海外版画


【13】補遺1


【14】補遺2

【15】陶板、金工、ブロンズ、石膏、染織

【16】江戸本

【17】下絵

【18】妹尾正彦

【19】海外油彩画

【20】洋書2、生田耕作旧蔵本

【21】関野準一郎
 
【22】川上澄生

【23】横田稔

【24】佐々木桔梗、プレス・ビブリオマーヌ関係本

【25】稲垣史生原稿

【26】久保貞次郎

【27】神崎温順関係本

【28】古沢岩美関係本

【29】高梨一男関係本

【30】芹沢_介関係本

【31】西川満関係本

【32】竹久夢二関係本

【33】金守世士夫関係本

【34】奥の細道画冊

【35】田川憲関連作品


◆蒐集雑感


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