まず不登校対策であるが、本委員会では『不登校を防止する教育環境とはどのようなものなのか』 また、『不登校になってしまった児童・生徒にはどのようなケアをするべきなのか』という2つの課題に分けて、それぞれ
長利允弘氏へのヒアリング 弘前第四中学校は1999年度と2000年度、荒廃のピークであった。器物の損壊、イジメなどによる年間指導数は100件を超え、不登校の生徒も56人(99年度)という状況だった。そうした中、99年度に好調として同校に赴任した長利氏は、数々のプログラムを2年目から実施し、学校運営の改革に乗り出す。 「教育は、教師論に始まって教師論で終わる」を持論とする長利氏は、まず教員の意識改革に取り組む。00年度初頭に、当時50数名いた教員のうち、「やる気が感じられない」18名に転任を命じたことも、その1つだったと言える。また、生徒達に対して範を示せる教師づくりを目指して、校舎内における全面禁煙を実施し、清掃時間中は教師自らも生徒と一緒になって汗を流し、作業することを義務づけた。さらに同校ではそれまで、生徒達が授業中に教室を抜け出すことが横行し、教員もそれを黙認していた状況であったが、責任を持って生徒を探して教室に連れ戻すよう、教員への指導を徹底したそうである。 また、長利氏は生徒達に対しても、新しい学校行事を実施することによって、生徒同士でいじめの芽を摘み取れる環境を作りだした。それが、クラス内の連帯感を高めることを目的とした「クラス合宿」や、生徒の中にリーダーを育成し、集団をまとめることを狙った「生徒会幹部宿泊研修会」などである。特に「クラス合宿」について、長利氏は「いじめが不登校につながっているのは明らか。小学校の頃から人間関係がうまく構築できない子供は、中学校入学直後の5月連休頃から兆候が現れる。その時期を狙って、いじめをなくす取り組みを行い、集団の質を高めることにした」と説明する。 このような長利氏をはじめとする教職員、そして生徒達までもが一体となった改革の取り組みは、次第に効果として現れ、不登校の生徒数も00年度が34名、01年度が4名、そして長利氏の退職直前の02年度では2名にまで減少するに到った。 加えて、同校の学校改革が成功した要因として、登校時の挨拶運動や、「心を写す鏡」の設置(校舎内のいたる所に設置された全身鏡。生徒達の身だしなみへの意識を高めることを狙った)などの地道な努カも見逃してはならないことだと思われる。 さて、長利氏はヒアリングの最中、「荒廃していたアメリカの教育界は、70年代の日本を参考に改革を行って成功した。しかし、お手本のはずだった目本の現状はどうだろう」と我々に語っていたが、この言葉は、自由やゆとりだけが追い求められがちになっている我が国の教育行政に、一石を投じるものではないかと感じた。無論、「管理教育に逆戻りするのか」という批判があることも事実である。しかし、その方法論はそておき、教師が体当たりで向き合えば子供達は心を開くという教育の基本に立ち返る必要性、そして教育現場における意識改革の必要性を痛感せずにはいられなかった。 真岡市においても、近年、中学生の高い不登校率が間題となっている。そうした間題を解決するために、長利氏のような(単なる評論家ではなく)実際に現場で学校改革を実践してきた方を招いて講習会を行い、意識改革を図ることは有効な策であろう。また、弘前第四中学校の「クラス合宿」を参考にして、真岡市が以前から実施してきた自然教育センターでの「宿泊学習」の中に、いじめなどの間題についてクラス全体が議論するようなプログラムを加えることも、実施可能だと思われる。 仙台市『児遊の杜』視察 さて、全ての学校が万全の対策を行えぱ、不登校の児童・生徒数はゼロになるのだろうか。それはあまりにも楽観的すぎると言わざるを得ない。やはり子供達にとって「セーフティネット」の役割を持つ、施設やサービスの必要性があるように感じるのである。今回視察した、仙台市適用指導センター「児遊の杜」の充実した設傭や、きめ細やかなサービスは、限りなく理想に近いものと思われた。 仙台市の不登校悶題は、昭和50年代に「引きこもり」の児童・生徒が増加したことに端を発している。事態を重く見た同市では、平成5年に適用指導教室「杜のひろぱ」を宮城野図書館の隣に開設した。これは、担当教員が生徒にマンツーマンで指導するものであった。今、この「杜のひろば」は市内6カ所(全て小学校や公共施設の空き部屋を使用している)に設けられている。 そうした状況の中、よりきめ細やかなサービスを行うために、6つの「杜のひろば」を統括する拠点施設を必要とする声が、市民・有識者の間からおこり、これを受けて平成14年に、旧泉市の青年婦人会館を改装して、「児遊の杜」がオープンした。現在は、 ・杜のひろば - 比較的、集団での活動か可能な 子供達を対象にした小集団活動施設 ・児遊の杜 - 集団での活動が困難な子供達を対象にした マンツーマン指導施設と、市内に住む全て の不登校者のデータを集計・管理する情報 拠点施設の役割を兼ねている と、役割を分けて運営をしている。 仙台市の不登校者は、平成14年の時点で約1100名いた。その内、上記の施設を利用した児童・生徒は147名だった。ちなみに、現在の彼らの動向は、進学47名、完全復帰19名、部分復帰30名、継続通級37名、自宅待機6名、不登校6名、不明2名となっている。65%以上の生徒が学校への復帰を果たしていることだけを見ても、この施設における指導の適切さが分かると思う。 今回の視察で、我々が関心させられた点は、以下の2つの事項である。 まず1つが、不登校者のデーターが詳細に収集されていることである。例えば「不登校の原因」について、真岡市では「その他」を除き7項目に分類しているのに対して、仙台市では11項目となっている。ちなみに、「児遊の杜」の担当職員である大場恵子指導主事へのヒアリング調査を行った際、委員から「真岡市における不登校の原因の1位は『無気カ』であるが、仙台市はどうか」との質間が出されたが、それに対する大場氏の返答はrそもそも不登校の原因に『無気力』ということはありえない。無気カに見えても、その原因は子供によって異なる。詳細に把握しなけれぱ正しいケアは困難だろう」というものだった。職員の意識の高さを思い知らされた。真岡市においても、今後、原因の調査をより詳細に行うようにしていかなければならないと感じた。 感心させられたもう1つの点は、不登校者の目線で諸々のサービスが行われていることである。仙台市では不登校者を集団生活がある程度出来る者と、出来ない者に分けられているように感じた。こうすることによって、前者においては「杜のひろば」によるサービスを、後者においては「児遊の杜」のサービスを、さらに、それすらも困難な者については、個別に家庭を訪間するという、きめ細やかなサービスを可能にしている。また、この事業においては、多くの市民ボランティアの活躍も見逃すことが出来ないが、彼らについても、何気ない言動で子供達を傷つけることのないよう、徹底した研修が行われている。 翻って、真岡市では平成7年から真岡中学校内に「ライブリー教室」が設置されているが、不登校者があえて学校に行かねばならない環境は、かねてから批判の対象となってきた。また、この施設は小集団の活動がメインであり、集団生活が困難な者への配慮が欠落していること。さらには、同校の設備(校庭、体育館や図書館など)を利用できないことなど間題点があまりにも多い。出来ることならぱ、学校とは分離し、別の公共施設を利用するべきだろう。具体的には、各種の施設が周囲に整っている青年女性会館などが適当ではないだろうか。加えて、集団生活が困難な者へのケアの充実と、それを担う人材の育成も検討する時期に来ているように思われる。 弘前市における生涯教育事業 次に、もう1つの研究課題である生涯学習については、弘前市総合学習センターが主催する、特に「出前講座」と「Do Hi-it!(ドゥ ハイット)」という2事業を視察した。 まず、「出前講座」についてであるが、これは平成12年に策定された弘前市総合計画の一環としてスタートした。市政の関する情報を的確に市民に伝えようと、現在36課が計63のメニューを用意し、5名以上の市民グループを対象に、あらゆる場所に赴いて講座を開いている。現在は、特に「市町村合併」の説明を求める声が高まっているそうだ。 真岡市では、今年から市公民館が主催する「市民企画セミナー」の一環として、市幹部が講座を開く同様の企画が始まっているが、1つの会場に多人数の市民を集めて行われていることを考えれば、弘前市のように少人数のグループをも対象にして、講座を開けるメニューをあらかじめ告知し、どこへでも赴くという、文字通りの「出前講座」を企画しても良いのではないかと考える。市民参加型の開かれた行政を目指すならば、まずその前段階として、正しい情報を伝えるべきであろう。 最後に、「Do Hi-it!」について述べる。これは、市民がこれまでに得た知識や経験を活用して、ボランティアや市民活動などへの協力を促す、いわば人材バンク制度である。参加に名乗りを上げた市民の情報は、総合学習センター内で管理され、必要に応じて連絡が入るシステムとなっている。これを活用して昨年度から始まったのが、「ウィークエンド子どもクラブ」である。完全週休2日制がスタートし、子供達の時間の過ごし方が、全国で大きな課題となっているが、弘前市では登録された市民を講師として、茶華道、音楽、スポーツ、陶芸や囲碁などの講座を開き、子供達に参加させている。昨年度だけを見ても、15の講座が計193回開催され、年間延べ1785人の子供達の参加があった。 真岡市においては、自然教育センターでの体験学習がこれに相当すると言えるが、今後は、より充実させて、週休2日制の時間を活用しながら、大人、子供双方が生きがいを創り出せる環境整備が求められると考える。 総じて今回の視察では、「不登校対策」「生涯学習」とも、真岡市において皆無のものをイチから創り出すのではなく、既存のサービスに対する視点を変え、充実・発展させることにより、市民の満足度は大いに高まるのだと強く感じた。財政難の折りではあるが、工夫とアイデアによって、双方の課題克服は十分可能であると思われる。 |
>> もどる |