渡辺私塾文庫

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所蔵品目録


【1】アルス日本児童文庫

「はじめに」

 アルス日本児童文庫は、昭和2年5月から昭和5年10月にかけて、アルス社から出版された、全76巻に及ぶ児童向け百科事典的文庫本。アルス社は、北原白秋の実弟鉄雄氏の出版社で、白秋本の装幀を手がけていた恩地孝四郎が、全巻の装幀から、挿絵のレイアウト、資料図表、広告パンフレットまで引き受けた。当文庫では、1997年7月、神田神保町で「1」の児童文庫画稿1484点を入手。特に55点の表紙絵原画は、版画家恩地にしては極めて稀少な肉筆原画であり、1点1点が恩地独特の時代を先取りした創造性に富んだ作品で、多くの方々に見て頂きたい芸術作品である。(例えば、、昭和4年12月発行第56巻の表紙絵原画は、今で言うコラージュ作品である。)
 恩地孝四郎肉筆表紙絵原画55点及び挿絵原画のほとんどは、入場無料の渡辺美術館に展示されていますので、来館なさって頂ければ幸いです。

T.アルス日本児童文庫画稿計1503点
  1. 恩地孝四郎表紙絵原画55点(写真) (全76点のうち55点)   口絵挿し絵原画267点(写真)(1979年、平凡社、名作挿絵全集4,81ページ掲載4点も含む。)
  2. 竹久夢二(写真)4点(第19巻世界童話集中5ページ「イワンの馬鹿」、55ページ「ほら男爵の旅」、175ページ「地獄に行けない鍛冶屋」、第20巻世界童話集下21ページ「抜け穴物語」)4点ともペン画                                                                    
  3. 武井武雄21点 (写真)
  4. 小村雪岱33点 (写真)
  5. 渡辺審也67点
  6. 田中良14点
  7. 深沢省三77点
  8. 周落葉245点
  9. 本田庄太郎9点
  10. 水島南平52点
  11. 石井了介74点
  12. 鈴木淳137点
  13. 濱田青陵10点
  14. 霧島正二郎60点
  15. 石川千代松37点
  16. 早川孝太郎4点
  17. 水島爾保布6点
  18. 他に石原純、加藤降四郎、石井修、石井新一郎、近藤湖畔、山田壽雄

    なお同児童文庫全76巻10セット(4セットは配本箱付き、昭和2年ー昭和5年)を当文庫で所蔵
                                                                                                                                                表紙絵原画55点内訳」                                                                                         第1巻、第2巻、第4巻、第6巻、第7巻、第8巻、第11巻、第12巻、第14巻、第15巻、第16巻、第17巻、第20巻、第20巻、第21巻、第22巻、第23巻、第24巻、第26巻、第27巻、第29巻、第32巻、第33巻、第34巻、第35巻、第36巻、第37巻、第38巻、第39巻、第40巻、第41巻、第43巻、第44巻、第46巻、第47巻、第49巻、第51巻、第52巻、第54巻、第56巻、第57巻、第58巻、第59巻、第60巻、第61巻、第63巻、第64巻、第67巻、第68巻、第69巻、第70巻、第71巻、第72巻、第74巻、第76巻の表紙絵原画55点が渡辺美術館に常設展示されています。                                                                                                                                                                                                                                                                                「◎2018年11月26日渡辺淑寛著作集第7巻真岡新聞社より刊行、◎2019年12月9日渡辺淑寛著作集第8巻真岡新聞社より出版、◎2021年7月31日渡辺淑寛著作集第9巻真岡新聞社より出版、◎2023年2月28日渡辺淑寛著作集第10巻真岡新聞社より出版」                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      (参考)「渡辺私塾美術館について」 「栃木県真岡駅近くの渡辺私塾美術館で恩地表紙絵原画全55点と恩地挿絵原画179点、装幀画稿2点、油彩画、版画等恩地作品394点が展示されています(2024年3月現在、他計1250点展示)。来館頂ければ幸いです。」(入場無料で版画プレゼント、土曜日午後1時〜4時開館 (但し2名以上でご来館の場合、月〜金曜日、相談の上、午後1時〜4時に臨時開館致します。рO90 5559 2434にお問い合わせください。)2019年1月より土曜日午後1時〜4時定期開館 2024年土曜日来館者様全員に著作集第10巻プレゼント (詳しくはヤフー、グーグルで「渡辺私塾美術館」を参照してください) メールアドレス(nantray@-berry.ne.jp)  
     ◎2023年7月8日、渡辺美術館開館9周年記念として、恩地孝四郎油彩画代表作「三人の女性」50号を展示(1988年フジイ画廊恩地孝四郎油絵展No1掲載作)
  19.                                                                   「アルス新日本児童文庫」について                                             恩地孝四郎、本の美術、誠文堂新光社、昭和27年、128頁に、昭和16年刊の同児童文庫別装後刊(アルス新日本児童文庫)が紹介されているが、渡辺私塾文庫では5冊所蔵(2007年5月16日に、この別装後刊1冊を入手。「アルス新日本児童文庫」第4回配本「発明と工業の日本」で、昭和18年4月10日第6刷2000部、恩地装幀、恩地挿画、前川千帆漫画と記載されている。昭和2年刊の全76巻本と同様、恩地の挿絵が多数入っているが、発行部数は昭和2年本よりかなり少ないと思われる。巻末には同シリーズが他に19点紹介されており、全部で20数冊の刊行であったと推察されるが現在調査中。2012年2月24日別装後刊・新日本児童文庫9,第21回配本「潜水艦読本」、海軍少佐福永恭助著、昭和18年7月15日第二刷・3000部、装釘恩地孝四郎、口絵・挿画松野一夫、挿画五島治雄、を入手。巻末に他22点が紹介されており、全部で23点の可能性もある。2016年4月1日アルス新日本児童文庫31巻「僕らの実験室」(石原純)を入手。装幀・挿画・恩地孝四郎と明記、昭和18年10000部発行。なおこの「僕らの実験室」は、昭和3年アルスの本児童文庫第51巻「子供の実験室」と同一内容だが、鈴木淳の挿絵全てを、恩地が少し訂正して描き直している。「恩地挿画」と明記したためなのだろう。恐ろしいことだが事実である。芸術家恩地の強い意志と執念を感じる2017年5月、第18巻「軍旗の下に」(昭和14年)を入手。巻末に25点の紹介記事。発行部数は未明記。
                                                                                                                          ただし、昭和28年から32年の全面改定版日本児童文庫第1巻〜52巻、58,60,63巻の55冊を所蔵。この改訂版も装幀は恩地だが、全巻同一の装幀本で、全巻表紙絵の異なる恩地色の濃い旧版とはかなり異なっている。もっとも、恩地が他界したのは、昭和30年であるから、装幀のみ引き受けて改訂版発行にはほとんど参加しなかったと推察される。(写真)  またこの改訂版は各1冊ごとに箱が付いていて、箱表中央に各冊違った印刷画が張り付いている。作者はその巻の挿絵担当者のようで、第60巻「農民のくらし」では、著者の高嶋米吉が挿絵も担当し、箱添付の絵にもY.T.の版上サインが入っている。(写真)  更に旧版の第26巻児童自由詩集(昭和3年)でカバー付きの1冊を2005年4月に発見し所蔵した。このカバーには「特価版」、総発売元「淡海堂書店」とあるので淡海堂が独自に制作してカバーを付け、販売したのではと推察されるが、詳細は不明。(写真) また全巻予約購読者に無料進呈されたと言われている「自習辞典」を1冊所蔵。(昭和5年11月17日発行、恩地孝四郎装幀、挿画(写真)

      (注、昭和28年版児童文庫には、「アルス日本児童ニュース」の小冊子が入っている。1枚2ページのものや、「学校劇脚本懸賞募集審査結果発表」の8ページの小冊子のものもある。)


U.「アルス日本児童文庫について」    (写真)

同児童文庫は、大正末から昭和初頭にかけての円本ブームのただ中、アルス社から出版された全76卷の児童向け百科大辞典と言えるもので、全卷の表紙絵、装幀、その他を恩地孝四郎がてがけた。「その他」とは、全巻の挿し絵の配列、地図や植物のペンによる書き直し、広告用パンフレット作りなどで、恩地氏の並々ならぬ苦労が察せられる。(口絵挿し絵原画264点のうち2点が広告用チラシ原画。更に驚くべきことは、他の辞典から切り取ってきた印刷の図柄を、そのまま張り付けて使用せず、ペンによる細密な画稿に数多く作り直していることである。この例では、(写真)ひじきとわかめの配置が換わり、コンブが中央で体をくねらせて踊っている。誰にも知られようもない、このような些細な作業の中にも毅然とした芸術性を注ぎ込むことこそが、真の芸術家の証だと言うのか?気の遠くなるような細密ペン画を平然と一日何十枚も仕上げる刻苦の中に真の芸術家の証があるのだと言うのか?恩地孝四郎よ。(写真)恐るべし、恩地孝四郎。)


「アルス日本児童文庫内容見本本」について

 
当文庫で2点所蔵。表紙の一部を除いて同一本。「毎月貳冊 華麗特製本壱冊五拾銭」と印刷されている本と、「澄宮殿下 東久邇宮殿下 御豫約の光栄を賜ふ」とされている本の2種。後者に昭和2年5月13日発行と銘記されている。恩地の画稿の中に、似た図柄があるので、表紙絵は恩地作と思われる。

 もう1点2011年10月28日入手。10x15センチで、全16ページの入会案内小本。表紙絵は恩地と推定。文面から昭和2年1〜4月の発行と思われる。挿絵は3名で、武井武雄と推察される1名と、K.Yosikawaのサインのある者、もう1名は不明。




V.「アルス日本児童文庫の配本状況と各卷の著者と挿し絵画家」

第1回配本 日本童話集(中)第16巻 小川未明著 挿画 田中良
児童劇集(上)第21巻 坪内逍遙著 挿画 同上
昭和2年5月
第2回配本 日本お伽噺集 第10巻 巌谷小波著 挿画 小村雪岱 昭和2年7月
アンデルセン童話集第30巻 鈴木三重吉著 挿画 清水良雄
第3回配本 日本童話集(上)第15巻 島崎藤村著 挿画 武井武雄
日本新童謡集 第24巻 北原白秋著 挿画 恩地孝四郎
昭和2年8月
第4回配本 アラビア夜話 第28巻 森田草平著 挿画 深澤省三
発明発見物語 第41巻 西村真次著 挿画 岡落葉
昭和2年9月
口絵 ウィルキンソン
第5回配本 日本童話集(下)第17巻 豊島輿志雄、楠山正雄、秋田雨雀
濱田広介、宇野浩二、鈴木三重吉 挿画 川上四郎
山の科学第47巻 今井半次郎、田中阿歌麿、本多静六共著
挿画 岡落葉 口絵 鈴木淳
昭和2年10月
第6回配本 世界童謡集(中)第19巻 楠山正雄訳 挿画 竹久夢二
源平盛衰記物語第35巻 土田杏村著 挿画 小村雪岱
昭和2年11月
第7回配本 西遊記水滸伝物語第36巻 宇野浩二著 挿画 水島爾保布
花と果実昆虫の生活第42巻 恩田鐵爾、横山桐郎共著
昭和2年12月
挿画 岡落葉、水島南平
第8回配本 西洋少年少女小説集第31巻 中村星湖訳 挿画 寺内萬次郎
身体と食物第50巻 正木不如丘著 挿画 恩地孝四郎
昭和3年1月
第9回配本 児童自由詩集第26巻 北原白秋選 挿画 恩地孝四郎
地中の寶第48巻 渡邊萬次郎著 挿画 岡落葉 口絵 鈴木淳
昭和3年2月
第10回配本 竹取物語今昔物語謡曲物語第33巻 和田萬吉著 挿画 太田三郎
日本立志物語第39巻 河井酔名著 挿画 高畠華宵
昭和3年3月
第11回配本 日本歴史物語(上)第1巻 喜田貞吉著 挿画 小村雪岱
世界立志物語第40巻 沖野岩三郎著 挿画 鈴木淳
昭和3年4月
第12回配本 児童劇集(下)第22巻 久保田万太郎、長田秀雄、秋田爾雀共著
挿画 岡本帰一
昭和3年5月
世界の不思議第57巻 一氏義良著 挿画 鈴木淳、深澤省三
第13回配本 日本歴史物語(中)第2巻 平泉澄著 太田三郎挿画
動物園第43巻 石川千代松著 岡落葉挿画 深澤省三口絵
昭和3年6月
第14回配本 世界勇者物語第38巻 廬谷廬村著 武井武雄挿画
海の科学第46巻 野満隆治、駒井卓、赤塚孝三共著
昭和3年7月
深澤省三挿画口絵、岡落葉挿画、加藤隆四郎挿図
第15回配本 日本勇者物語第37卷 江見水陰著 石井了介挿画 昭和3年8月
子供の実験室第51巻 石原純著 鈴木淳挿画
第16回配本 面白い数学第53巻 竹内端三著 恩地孝四郎挿画 昭和3年9月
図画と手工の話第67巻 山本鼎著 山本鼎挿画
第17回配本 グリム童話集第29巻 舟木童信訳 川上四郎挿画
文明の利器第52巻 岡部三郎著 恩地孝四郎挿画
昭和3年11月
第18回配本 界童話集(上)第18巻 豊島輿志雄、高倉輝訳 深澤省三口絵
鈴木淳、深澤省三挿画
我家の紋年中行事第65巻 沼田頼輔、中山太郎共著
昭和3年12月
石井了介挿画
第19回配本 日本歴史物語(下)第3巻 中村孝也著 小村雪岱挿画
支那童話集第13巻 佐藤春夫著 島田とつ郎挿画
昭和4年1月
第20回配本 都会と田舎第62巻 小田内通敏著 恩地孝四郎挿画 昭和4年2月
運動の話第69巻 針重敬喜著 鈴木淳挿画
第21回配本 世界神話伝説集第9巻 松村武雄著 初山磁挿画 昭和4年3月
日本童謡集第23巻 北原白秋編 石井了介挿画
第22回配本 日本昔話(下)第12巻 金田一京助、田中梅吉、伊波曹猷、佐山融吉
前川千帆挿画
昭和4年4月
日本の名畫第55巻 笹川臨風著 写真のみで挿画無し
第23回配本 日本神話伝説集第8巻 柳田国男著 石井了介挿画
世界童話集(下)第20巻 山崎光子、松村武雄共訳
竹久夢二挿画
昭和4年5月
第24回配本 西洋歴史物語(中)第5巻 大類伸著 田中良挿画 昭和4年6月
珍しい動植物第44巻 川村清一、川村多寶二著
近藤湖畔、山田壽雄挿画 深澤省三口絵
第25回配本 イソップ物語第27巻 新村出著 宇都宮誠太郎挿画
日本の旅第58巻 田中啓爾著 恩地孝四郎挿画
昭和4年7月
第26回配本 世界童謡集第25巻 北原白秋他共訳 恩地孝四郎挿画
太平記物語第34巻 藤村作著 小村雪岱挿画
昭和4年8月
第27回配本 西洋冒険小説集第32巻 大木篤夫訳 武井武雄挿画
博物館第54巻 濱田青陵著 濱田青陵、霧島正三郎挿画
霧島正三郎口絵
昭和4年9月
第28回配本 印度童話集第14巻 高倉輝著 倉田百羊挿画 昭和4年10月
児童唱歌集第68巻 山田耕作、梁田貞、中山晋平、藤井清水
成田為三、草川信、本居長世、弘田龍太郎、
小松耕輔曲 恩地孝四郎口絵
第29回配本 東洋歴史物語第7巻 藤田豊八著 水島爾保布挿画 昭和4年11月
日本と世界第61巻 鶴見祐輔著 恩地孝四郎挿画
第30回配本 世界の名畫第56巻 石井柏亭著 写真のみで挿画無し
法制経済の話第66巻 三瀦信三、太田正孝、下村宏共著
恩地孝四郎挿図
昭和4年12月
第31回配本 西洋歴史物語(下)第6巻 齋藤清太郎著 鈴木淳挿画
歌、俳句、諺第64卷 折口信夫、高濱虚子、柳田国男共著
早川孝太郎挿画、恩地孝四郎口絵
昭和5年1月
第32回配本 星と空、火山と地震第49巻 山本一清、今村明恒共著
恩地孝四郎挿画
昭和5年2月
明治から大正へ第63巻 中村孝也著 本田庄太郎挿画
第33回配本 日本昔話集(上)第11巻 柳田国男著 岡本帰一挿画
世界の旅第59巻 田中啓爾著 恩地孝四郎挿画
昭和5年3月
第34回配本 西洋歴史物語(上)第4巻 村川堅固著 鈴木淳挿画
地球と生物と歴史第45巻 渡邊萬次郎、石川千代松共著
深澤省三、石川千代松挿画 深澤省三口絵
昭和5年4月
第35回配本 隣の国々第60巻 内田寛一著 渡邊審也挿画 昭和5年8月
日用寶典第70巻 アルス編集部編 恩地孝四郎口絵
第36回配本 日本建国物語第71巻 鈴木三重吉著 鈴木淳挿画 昭和5年8月
寶島探検物語第74巻 平田禿紀訳 深澤省三挿画
第37回配本 八犬傳物語第73巻 土田杏村訳 水島爾保布挿画 昭和5年9月
愛の学校物語第75巻 大木篤夫訳 武井武雄挿画
第38回配本 日本童謡物語第72巻 北原白秋著 恩地孝四郎挿画
世界工芸美術物語第76巻 山本鼎著 石井了介、石井新一郎挿画
昭和5年11月
 その他、各配本毎に、16ページの学習新聞、アルス月報、アルス代理部特報が箱の中に同封されていた。他に、日本児童文庫全70巻総目録、「赤い鳥」入会のお薦め葉書、日本児童文庫書架注文書、学習新聞繰込帖広告などが、時々同封されている。
(写真)

昭和5年11月に「日本児童文庫自習辞典」を刊行(356ページで、児童文庫76冊より小型。恩地装幀・挿画と明記。

W・アルス日本児童文庫本異本について


 2006年4月、京都の古書店から、「日本傳説集」柳田國男著、昭和4年5月3日発行、アルス刊という1冊を購入した。この1冊は、23回配本、第8巻「日本神話傳説集」と同一内容で装幀も恩地と明記されているが、異なるのは、本のタイトル、表紙、奥付、口絵の前ページ見開き表紙の4点だけである。奥付を見ると、発行日、発行者は同一だが、発行所、発行者の住所は異なっている。衣だけ替えられたこの異本は、児童文庫本発行と同時に、単行本として出版された形だが、住所の違い等の謎は残る。他の巻にも、同時発刊単行本があるのだろうか。今後の調査を待ちたいが、ご存じの方がいらっしゃれば、御教示頂ければ幸いである。(写真)
X・アルス日本児童文庫復刻本について

昭和56年、57年に、名著普及会から全76巻と別巻計77冊が復刻された。別巻は、解題と作品・編著者一覧からなり、大変参考になる。但し、挿絵画家に未掲載が散見される。また、学習新聞等の付録は同封されていない。当文庫で全77冊所蔵。

Y 「終わりにあたって」


北原白秋と菊池寛の大人げない論争を引き起こし、円本ブームのただ中に咲いた泡沫文庫にすぎないという軽蔑の眼で見られがちなアルス児童文庫も、上の一覧表を見ると、当時一流の文化人と画家の集大成であったことは否定できない。
同児童文庫の編集者であった中村正爾氏は、書窓10号(アオイ書房、第二巻4号、昭和11年1月、327頁)の中で「此の良心的な全集は、営業的には失敗に属するかもしれないけれど、しかし、出版的には立派に成功したものであると云わなければならぬ。」
と、出版人の苦渋と気概をのべている。この気概の正当性を見極めるためにも、軽蔑に満ちた先入観を捨て去り、同児童文庫を、児童書の質の面からと絵本としての芸術性の面から、あるいは恩地孝四郎の総合芸術装幀作品としての面から、詳細に調査研究する時期に来ているのではないだろうか。





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