携帯型γ線検出器 (DPM表示)

1.はじめに
 東日本大震災の津波による福島第一原発の事故により、多量の放射性物質が大気中に放出され,広範囲に飛散した。真岡市は、殆ど震災前と変わりない空間線量であるが、マイクロホットスポットとよばれる放射線量の高い場所も身近なところに存在する。人体に危険な線量ではないが、原発事故で放出された放射性物質によってわずかではあるが汚染されている。
 シンチレータとフォトトランジスタによる検出器である。シンチレータの光の強さを計測すればエネルギーも測定可能である。検出できる放射線はγ線である。シンチレータに密着したフォトダイオードから出力される電流の総量がγ線のエネルギーに比例する。チャージアンプ(積分器)にこの電流を流し込むと、γ線のエネルギーが信号の振幅として取り出す事ができる。パソコンの音声入力端子に接続してエネルギースペクトルを表示させるフリーソフトも存在する。作り方を説明するので興味のある方は自作に挑戦してほしい。
2.放射線検出器の種類
  自作した測定器はセンサーにシンチレータを利用したタイプである。シンチレータにγ線が入射して相互作用(光電効果,コンプトン散乱,電子対生成)によって発生した二次電子が結晶物質を励起し,励起状態から定常状態に戻るときに光を発生する。この光をフォトダイオードで読み出す方式である。シンチレータは特殊な部品で、今まで入手が困難であった。しかし原発事故後、ネットで秋月電子で1cm3の体積の物が4500円で、0.5cm×0.5cmの受光面積のPINフォトダイオードが500円で手に入るようになった。この二つの部品がそろったので放射線検出器の自作が可能になった。
3.γ線センサーの製作
シンチレーターは1辺1cmの立方体である。フォトダイオードも1cm×1cmの面積が理想だが,この大きさのダイオードは大変高価で入手性も悪い。そこで4つのダイオードを並べることで対応した。写真のように組み合わせて受光面積を大きくした。ただつなぎ目の部分が写真のように存在するので1cm×1cmのPINダイオードより実質的な有効面積は小さい。  チャージアンプはネットで発表されている回路を参考に数種類試作し性能を調査した。最初に試したオペアンプを使った回路ではノイズレベルがγ線のエネルギー換算で150keVを切ることはできなかった。次にローノイズFETを付加したブートストラップ回路を試してみたが,あまり効果は見られなかった。最後にたどり着いた回路がオペアンプの初段にFETを一個加えたハイブリット方式で,このFETをフォトダイオードの近くに設置してセンサーユニットを作り,ケーブルでオペアンプとつなぐ方式とした。アルミの四角柱の中にユニットを収めることで外来ノイズの点でも有利である。  フォトダイオードからの信号は極めて微弱である。金属ケースに入れて外部から入る雑音信号を減少させる必要がある。また弱い放射線源を測定するには,センサー部をできるだけ近づける必要があるので,従ってセンサーがどの部分にあるか分かるような形状のケースにした。このような目的で写真のような凸形の形状を採用した。
 

 

 

4.チャージアンプの製作
 次の回路図のチャージアンプを採用した。オペアンプの初段に2SK170によるソース接地増幅団を加えてローノーズ化した回路である。回路図の点線の左側の部分が四角柱のアルミ棒の中に組み込まれる。オペアンプ段は写真のようにアルミケースの左端に設置して接続した。この4本の線をシールドし,センサー部を引き出せば狭い場所の放射線量を測定するのにさらに都合が良い構造になる。  電源は±2電源(単3×4)とし,電池ボックスの中間点から線を引き出しグランドとした。出力にあるダイオードはリミッターで,パソコンのマイク入力端子を壊さないための保護回路である。  1000Pと22kがローカットフィルタを構成し,10Mはポールキャンセル回路で,パルス波のアンダーシュートを補正する。220kと56Pはハイカットフィルタである。γ線の信号以外をカットしてノイズを低減することで,より低エネルギーのγ線を計測できるようにするためである。どの程度変化するか試しに,この後に四次のハイカット,ベッセルフィルタを接続した。しかし大きな変化はなかった。なお,ノイズレベルが高いと低エネルギーγ線のピークの分解能が悪くなり,ピークとして認識できなくなるようだ。四次のベッセルフィルタを接続した状態での消費電流は約25mAであった。単3アルカリ乾電池で放電終止電圧を0.9Vとすると約100時間利用できる計算になる。
5.表示装置の製作
  線量を表示するのにPICなどを使ってデジタル的にパルスをカウントして一定時間に入射するパルス数を係数して表示する方法がある。しかし,プログラミングの知識が必要だし,PICの書き込み器などの装置も必要になる。一個100円程度の値段のPICだが,一個だっけを作る事で考えるとこすとコストパーフォーマンスは大変悪い。つまりこれから新規で始めるには敷居はかなり高い。そこでアナログ式のレートメータで線量を表示する方式を製作した。  次の図がレートメーターの基本回路図である。毎秒nこのパルスが加わると出力電圧A0は   V0=n・Vp・Cc・Rt  の関係式で与えられる電圧が発生する。γ線によるパルスはランダムに発生するのでV0がふらつかないようにCt・Rtの時定数を大きくする。しかし大きくすると変動は少なくなるが正しい値になるまでに長い時間がかかるので,時定数を切り替えるようにする。
 レートメータの特徴は,変化する係数率を読み取りやすいことにある。従って針式の100μAの電流計を使った装置をはじめ自作した。場所によって変化する空間線量を測定するのに大変使いやすかった。しかし,なれない生徒が読み取るのに少し不便を感じた点と,電流計は大きく重く,小型のケースに組み込めない点が問題となった。今回の装置では少しちぐはぐではあるがデジタルパネルメータでアナログレートメータの電圧を読み取り表示することにした。  この図が表示装置の全回路図である。入力されてパルスは、コンパレータで1kの半固定抵抗で設定した電圧より大きい時のみパルスが出力される。このパルスでワンショットマルチバイブレータを動作させ、一定幅、一定振幅のパルスを発生させる。このパルスを積分して直流電圧に変換してDPMで読み取る。このパルスレートメータではコンデンサを切り替えてレンジ切り替えとした。またこのパルスをトリガーとして約3kHzの信号を発信させてスピーカを鳴らした。(この回路を通さず、直接スピーカをつないでもクリック音は聞こえる)
 レートメータを上手に調整しないと正しい線量は表示できない。μSv/hの値を表示させるように次のような簡易的な方法ではあるが行った。  まずγ線検出器を接続し1秒間に数回パルスを検出するように半固定抵抗1kΩを調整する。γ線検出器の動作を確認するには,γ線検出器の出力をパソコンのマイク入力端子に接続して,フリーソフトWaveSpectraを起動して,自然放射線を計測する(たんに電源をオンにして机の上に置いておくだけ)。このとき1秒間のパルス数を目視すると3〜5個入射していることがわかれば正しく動作している。次に線量表示器に接続し,1kΩの抵抗を調整して1秒間に数回クリック音がスピーカより出るように調整する。WaveSpectraで確認できた波高の低いパルスはカウントしないような調整が良いようだ。次に20kΩの半固定抵抗を調整して,新聞に発表されている空間線量になるように調整する。  最後にμSv/hがわかっているセシウム汚染土を用意して測定し,その線量を表示するように20kを調整する。そして次に自然放射線を測定すると,はじめに測定した値とは違った値を示すはずなので,1kΩを調整して新聞で発表されている空間線量を示すように再度調整して調整は完了する。空間線量は長時間の平均値なので100秒程度の時定数で平均しているこの回路では,結構変動するので気長に調整する必要がある。    

 

 この写真はγ線検出器、線量表示器、そしてγ線のパルス列を録音するためのICレコーダを示す。いったんICレコーダで信号を録音し、後にパソコンに接続してγ線スペクトルを計測する。このようにすれば、野外の線量の高い場所,いわゆるホットスポットを探しだして,その場所のγ線スペクトルをパソコンを持ち出さなくても計測することができる。
 次の図は同じ条件で計測したγ線スペクトルである。計測時間は1時間である。パソコンのマイク入力端子にγ線検出器の信号を入力して,フリーソフト「ベクモニ2011」でスペクトルを計測した。γ線のエネルギー校正はランタン用マントルを用い,2614keV,239keVのピークでおこなった。図で「やさしお」とあるのは,カリウムを多く含む減塩塩を計測した結果である。汚染土とは震災後1年間掃除されずに残っていたプールサイドの排水口にたまっていた泥を計測したものである。密閉容器に入れて表面線量を測定すると1μSv/hであった。いわゆるマイクロホットスポットである。
 これまでにアップロードしたスペクトルと比較すれば一目瞭然である。スペクトルの分解能,及びノイズレベルがかなり下がった。 (以前にアップロードしたスペクトルはエクセルで表示したが,上のスペクトルはベクモニ2011で表示した物を画面コピーした。表示は移動平均して凸凹をならしてある。)