放射能測定器の作り方NO.2

−高性能化への挑戦−

 
 
 γ線測定器の性能を向上させる目的で,10x10x30mmの大きさのシンチレータ LEC3M101030 を株式会社リーディングエッジアルゴリズム購入した。 (5900円/個) さらに面積1cm2のフォトダイオードS3590-08をデジットで9660円で購入した。  この2つの主要部品を使い,チャージアンプは今までと同じ物を使い,性能がどの程度向上するのか試した。

1.製作


フォトダイオードS3590-08

シンチレータ LEC3M101030

 フォトダイオードに接触させる部分が鏡面仕上げされていなかった。田宮模型のコンパウンドで磨き鏡面仕上げした。

 仕上げ後,シリコングリスを塗布し,フォトダイオードを取り付け,テフロンテープを巻き,その上から自己融着テープを巻き付けて固定した。

 センサー部分を基盤に両面テープで固定して,センサー側から回路を空中配線でくみ上げていった。

 完成したチャージアンプ。センサーと一体化した。使用したコンデンサーは振動ノイズを軽減するため積層セラミックコンデンサーの利用を見合わせた。センサーの上部に1mm厚のアルミ板を両面テープで固定した。

 最後に25mm×25mm,厚さ2mmのアルミの四角柱に回路を収めて,写真のような形の放射線測定器とした。このケースにねじを切り,センサー上部のアルミ板にねじが当たるようにねじを締め付けてセンサー及びアンプを固定した。

次の写真は計測中の様子を示している。試料はランタン用マントルである。

2.性能

 ベクモニで測定したマントル(エネルギー校正用試料),減塩塩「やさしお」,セシウム汚染土,バックグランドを測定し性能を確認した。まず低エネルギーの分解能が向上し,338keVのピークがはっきりした。また今までノイズに埋もれていた77keVのX線が測定できるまでローノイズ化した。

 大型のシンチレーターに変えたことによって,計数率が向上すると考えた。またフォトダイオードの面積が増大した事で,入射光量が増大するので,S/N比が向上すると予想した。そこで以前製作した測定器と性能を比較した。比べたのは1ccのシンチレータとS6675を4つ使ったセンサーNO.1,1ccのシンチレーターとフォトダイオードS6775を組み合わせたセンサーNO.2と今回製作したセンサーNO.3である。比較のために10分間ランタン用マントル,及びバックグランドを測定した。

表1

シンチレータ体積 フォトダイオード 受光面積 その他
NO.1   1cc  S6775×4  77mm 4個並列接続
NO.2 1cc S6775×1  26mm 4次ベッセルローパスフィルター付き
NO.3 3cc S3590-08 100mm  


 3つの測定器の規格を一覧にした。NO.1はS6775を4つ並べて面積を拡大したが,つなぎめの部分があるため,N0.2の4倍の面積にはならない。またNO.2は4次のベッセルローパスフィルターがつながっているので,その分ゲインが小さくなっている。  次の表は,バックグランドを測定しアンプのノイズレベルをチャンネル,及びマントルでエネルギーを更正しエネルギーに換算したノイズレベルを示した。

表2

バックグランドカウント アンプノイズレベル 2.6MeV のチャンネル アンプノイズレベル
NO.1 1302 (3.62cps)    10ch      245ch 105keV
NO.2 1252 (3.48cps)     8ch      153ch 136keV
NO.3 3642 (10.1cps)    17ch      504ch  88keV
 

 次の表はランタン用マントルを測定し,表のエネルギー範囲,ピークのカウント数を比較した

表3

239keV 以上の計数 1600keV以上の計数  2614keVピーク
NO.1 18527(0.92) 673(0.98) 74(1.30)
NO.2 20067(1.00) 685(1.00) 57(1.00)
NO.3 27558(1.49) 1240(1.81) 106(1.86)
 上のグラフは測定器のゲインを比較するために,ランタン用マントルのスペクトルを表示した。NO.3のゲインがNO.1の2倍ある。ゲインが上がったことで結局S/N比が向上し,X線のピークが検出可能になった。
 表2のバックグランドのcpmを見るとNO.1とNO2がほぼ同じで,シンチレータの体積が3倍のNO.3は約3倍になっている。バックグランドを発生させる放射線源は色々な方向より飛び込んでくる。従って面積が3倍になれば計数率は3倍になると考えれば納得できる。

 特定の方向においた放射線源からのγ線を計数する場合,シンチレーターに入射する確率はシンチレータの大きさと形状に関係するはずである。線源が点線源である場合,γ線は球面状に放射するので,シンチレータとの距離の二乗に反比例して計数率は減少するはずである。そこでNO.3のシンチレータは10x10x30mmであり方向により計数率が変化すると予想できる。シンチレータを縦に線源(汚染土を入れた密閉容器)に置いた場合と,横に置いた場合とでどう変わるかスペクトルを測定した。

 

 測定脚気は予想どおりであった。わずかに横に置いた方が計数率が高くなっていることがわかる。

 

 セシウムのピーク使って半値幅を測定した。
   ΔE=55keV   E=798keV
   半値幅=6.9%
であった。

3.検出効率

 測定器の効率を見積もるために,やさしおのカリウム40のγ線を測定した。やさしお180g中にカリウムを49.7g含んでいる。カリウム40の放射能は1gあたり30Bqとなる。ただし90%がβ崩壊,10%がγ崩壊する。この装置はシンチレータによるγ線測定器であるので,理論上1gのカリウムは3Bqと測定されるはずである。
 やさしお一袋180g中にはカリウムは49.7g含まれ,1kgに換算すると276gとなる。従って180gの放射能は49.7×3=149Bq,1kgでは828Bqとなる。従ってこの値を使ってカリウム40の1460keVの全エネルギーピークに対するベクモニのBq/cpsの換算計数を計算すると2010となる。この値は1460MeVのγ線のトータルでの検出効率を示す尺度となり,0.05%となる。
 0.05%は全吸収ピークの検出割合と言える。しかしコンプトン散乱が起きると一部のエネルギーしか吸収されず,連続的なエネルギー分布として測定される。従って全γ線の何%がこの測定器で検出できたかを見積もるには,アンプのノイズレベルより上のエネルギーから,1460keVを含んだ範囲の,バックグランドを差し引いたネットのカウントのcpsを見積もることで可能となる。

 上の図の赤の部分がネットのカウントで,95keV〜1639keVのエネルギー範囲でネットの値は1.29cpsとなった。やさしお180gは理論上149cpsとなる。従って全γ線の0.87%を検出したことになる。

                                                              つづく