γ線スペクトル測定装置 チャージアンプ回路の性能を検証する

−高性能化への挑戦−

 

 

  スペクトルのピークの形を目印にしてチャージアンプ回路を改良していった。チャージアンプの回路構成を変更したり,回路定数を変えるなどでスペクトルのピークの形が変化する。回路の違いや,定数の違いで低エネルギー領域ではピークが消失したりする。また高エネルギー領域の2.614MeVのピークは計数率が低いこともあるがやはりピークが消えたり形が崩れたりした。きれいなスペクトルが表示できるように定数を調整したり,回路を変更したりして改良を加えた。

  最初のチャージアンプの回路図である。ローノイズオペアンプを利用した回路である。この回路で測定したスペクトルを見るとアンプのノイズレベルはエネルギー換算で170keV程度であることが分かる。(1ccのシンチレータ+S6775)マントルのスペクトルを見るとγ線のピークが広がって,分解能は良くない。また,福島第1原子力発電所の事故で放出されたセシウムのピーク605keVと662keVを分離できていない。798keVのピークも不鮮明である。
 
 チャージアンプの方式をネットで調べた結果,初段にFETを使う回路がローノイズである事が分かったので試してみた,参考にしたサイトではFETをフォトダイオードに密着させて,センサー部分を本体から分離してコンパクトにまとめ,遮蔽容器内で食品の放射線量を量る様子が紹介されていた。手元に多芯のシールド線が無かったので,そこまではしなかったが,センサー部分を電池を収納するケースより追い出すことができたのでノイズの混入無く調整ができるようになったので色々定数を変更して性能の違いを検証するのに都合が良かった。
  この回路の点線から左側を分離してフォトダイオードと一緒に写真のアルミの四角柱の中に組み込んだ。そして回路定数を変えてスペクトルをとり検証した。 定数変更による変化を次の1〜5にまとめた。

1.Cf=3PF,Rf=47MΩ,R0は無し,1000Pを4.7μに変更,56Pを取り除いた回路定数に設定

 今まで使っていたチャージアンプと特に性能での違いは認められなかった。なお,ベクモニでのサンプリング周波数を96kHzから48kHzに下げた方が分解能は良いように感じた。

2.Cf=1.5PF,Rf=47MΩ,R0は無し,回路図のように1000P,56P の回路定数

  今まで高域のノイズだけを気にしていたが,低周波領域のノイズも影響があると思い,4.7μを1000Pに変更し低周波領域の雑音をカットした。パルスのアンダーシュートが目立つようになったが,ノイズレベルが下がり,S/N比が向上したため,238keVのピークが今までの増幅器では得られなかったほどハッキリ見えるようになった。しかし,2.614MeVのピークが不鮮明になってしまった。

 3.Cf=1.5PF,Rf=247MΩ,R0は無,1000P,56P の回路定数

  アンダーシュートは目立たなくなった。2.614MeVのピークも今までと同程度に見えるようになった。今までのアンプの中で性能は最も良くなった。

 4.Cf=1.5PF,Rf=247MΩ,R0=8.2MΩ,1000P,56P の回路定数

  ポールゼロキャンセル用の8.2MΩ,及び出力の330Ωに0.03μのコンデンサーを加えた。ゲイン若干下がったがベクモニで見る標準パルス波形のアンダーシュートが殆ど見られなくなった。この結果,プールサイドで採集したセシウムで汚染された土のセシウムのスペクトルで605keV,662keVの二つのピークが何とか分離して見えるようになった。

 5.Cf=1PF,Rf=1GΩ,R0=5.6MΩ,1000P,56P の回路定数

  Rf =1GΩとした方が性能が向上するというので、今まで100MΩ×2+47MΩの3本直列で合成していたのを1GΩに変更した、また抵抗一本で済むので回路も整理できる、1GΩの抵抗が入手できるかネットで検索したところアールエスコーポレーションで5本2655円で購入できた。247MΩの場合とスペクトルを比較したが顕著な性能の向上は見られなかった。ただし5V単一電源で動作させようとしたとき1GΩでは動作しなかった。FETのゲートバイアスを発生させるためにOPアンプがマイナスに大きく振れないと適切なバイアスがゲートに加わらないためである。

 ランタン用マントルのスペクトルで性能の差があるのか確認した。
 赤が1p+1GΩ、黒が1.5p+247MΩである、計数率が若干違うがスペクトルのピークの形などはほとんど変わっていない。

 

 上図の回路において23K369はローノイズFETで、以前の2SK147の同一と思われる。OPアンプによってドレイン電圧がダイオードの順方向電圧0.6Vになるようにフィードバックがかかり、FETは0.6Vのドレイン−ソース電圧で動作する。ドレインが0.6Vで、電源電圧が12Vであれば680Ωの両端の電圧は11.4V、従ってドレイン電流は17mAで動作する。このときゲート−ソース間電圧はおおよそ−0.1Vで、この電圧を1GΩの抵抗を通してオペアンプがFETに供給する。したがって、回路が動作するにはOPアンプの出力がマイナスにある程度振れなければならないので、単一電源で動作させるときのGND電位の取り方に注意が必要である。  FETはドレン−ソース間電圧0.6Vで動作する。このとき入力容量は100p程度になる。入力容量が大きいとパルス信号の電圧振幅が小さくなり不利だが、電圧を10Vに上げていっても70p程度あるので電圧をあえて上げる必要はないだろう。逆にドレインからゲートに漏れ流れる電流が1pA→1nAに増加するのでデメリットの方が大きいと考えられる。特に抵抗が1GΩと大きいときに影響が出ると考えられる
  3ccのシンチレータを使った検出器から±12Vの電源で動作させているが、この場合は問題なくバイアスがかかり動作する。上の回路図がDC-DCコンバータで±12Vの電圧を発生させる電源回路とチャージアンプ回路である。電源のノイズはフィルターでほぼ完全に取り除けた。 

 以上の様に細かな改良を加えてきた結果,スペクトルを比べるとかなり性能が向上した。上のスペクトルは3CCのシンチレータと受光面積1cm2のフォトダイオードS3590-08で測定して得られたもので,分解能は,はじめの状態よりかなり向上した。次のセシウムのスペクトルを比較するとよく分かる。

まとめ
  • 回路構成としては初段にローノイズFETを使った回路が優れている。
  • チャージアンプの積分用のコンデンサーの容量は6PFより1PFの方がゲインが上がりS/Nが向上する。
  • このコンデンサに並列に接続する抵抗がないと,チャージアンプの出力が飽和するので不可欠。
  • 247MΩと1GΩの差は僅差である。
  • 1000PFと22kΩで形成するローカットフィルターを入れるとS/N比が向上するが,パルスのアンダーシュートが目立つようになる。またRfが小さいときはさらに目立つので,この意味でRfは1GΩがベター。
  • 5.6MΩを接続し,パルスのアンダーシュートを補正(ポールゼロ)すると分解能が向上する。5.6MΩの値は,Cf,Rfの値により調整する。なおオシロスコープで波形を観察するのは困難で,ベクモニの標準パルス形状で確認する。
  • ハイカットフィルターで広域のノイズをカットすると良いとされるが,四次のベッセルフィルターを試したが大きな変化はなかった。今後の検討課題。