実験用定電流電源装置

1.はじめに

  「電流が磁場から受ける力」等で使う電源装置を自作しようと考えた。できるだけ大きな電流を流せる電源装置を目指した。そこで目をつけた物がパソコン用のATX電源装置である。数年前まで使用していた物だ。12V−10A,5V−30A,3.3V−14Aの容量がある。パソコンを自作した経験があれば押し入れの隅に転がっていると思う。またリサイクル店でジャンク品として目にすることも多い。高級品でも運が良ければ二千円程度で手に入る。(普及品なら新品でも三千円程度から入手できる。)  この図は電源装置とパソコン−マザーボードをつなぐコネクターのピンアサインを示している。左側の写真は電源装置の動作を確認するために作った装置である。図のPS_ON#とPWR_OKを接続すると電源は動作を開始する。

 写真はATX電源をケースから外して,アルミケースに入れ直した写真である。中心に見えるのはCPUクーラーでジャンク品である。3mmのネジを切ってMOSFETを取り付けた。見てくれを良くしようと電源のケースを外してアルミケースに入れ直したが,ばらすと感電の危険もあり,あくまで個人の責任で行うことになるので注意したい。自信がなければそのまま使えば良いだろう。
 

2.定電流電源

  電源装置には2種類ある。電流を流しても常に電圧を一定に保つ定電圧電源。負荷抵抗を変えても常に一定の電流を流す定電流電源である。理科の準備室にある市販の電源装置は一般的に定電圧電源であるが,出力を短絡したときに回路を保護するために短絡電流を一定値に抑える目的で定電流電源に自動的に切り替わる回路が組み込まれている。本校にある電源装置はこの時の電流値をボリュームで調整する事が可能で,定電流電源としても動作する。  

(1)電源装置の問題点

 本校にある電源装置は0〜24V,最大5Aの電源装置である。出力電圧が一定になるように制御用トランジスターを可変抵抗素子として動作させる。電流を流すと(入力電圧−出力電圧)×出力電流の電力損失が生じ,熱として放出する。出力電圧が小さいほど,そして電流が大きいほど発熱が激しくなる。  「電流が磁場から受ける力」の実験を行う場合,磁場の中にホルマル線を入れて力を受ける様子を生徒に見せる。この場合電源装置につなぐ電線の抵抗は数10mΩ程度(テスターのΩレンジではゼロと表示される)と考えられるので,電源装置にとっては最悪の状況であり多大の発熱を生じる。  

(2)電子負荷装置(定電流電子負荷装置)

  負荷抵抗は大変小さいので,電圧を調整して電流を設定するやり方は難しい。みの虫クリップなどで結線すると,くわえ方によって接触抵抗がかなり変化する。よって電流値は大きく変化する。そこで電流値をコントロールする回路を組みこむ。この回路は吸い込み型の定電流回路で,電子負荷装置と呼ばれる場合がある。パワートランジスターとOPアンプを使って簡単に自作可能である。今回自作した装置はアナログ型であるが,スイッチング方式を採用すると電力損失の点で有利になるが回路方式が複雑になる。  

(3)回路の動作原理

  OPアンプLM358は+端子と−端子の電圧が同じになるように電圧を出力する。OPアンプの出力はパワーMOSFETのゲートに接続されている。NチャンネルFETはゲート電圧が高くなるとD(ドレーン),S(ソース)間の抵抗が小さくなる。ソースに接続した0.1Ωの抵抗で,電源から負荷をとおしてドレインに流れ込んでソースへ流れ出る電流Iを,0.1〔Ω〕×I〔A〕で,電圧に変換する。LM358の−端子でこの電圧を読み取り,+端子にはボリュームで可変される0〜1〔V〕の電圧Vを加わる。OPアンプは+−端子の電圧が等しくなるように動作するので V=0.1×I,従って I=10Vの電流が流れるようにD−S間の電気抵抗が自動調整される。また0.1Ωの両端の電圧をデジタル電圧計で測定して電流値をモニターする。  電流は最大10Aとした。ATX電源の電圧端子によっては,これ以上の電流を流すことも可能であるが,定電流回路の電力損失を考慮する必要もあり取りあえず10Aまでとした。PICなどを使ってもっと細かな制御をすればもう少し大きな電流を流すことも可能である。

(4)発熱問題

  負荷抵抗により利用する電圧端子を選んで利用する。負荷抵抗が0.3Ω以下ならば3.3V端子を,0.3〜0.5Ωは5V端子と切り替える。実際の利用では,ボリュームを最大にしても10Aの電流が得られないときに,高い電圧端子に切り替える。注意したいことは,むやみに高い電圧端子を使うと,パワーMOSFETでの電力消費が大きくなるので無駄が生じる。(最大で120W)  パワーMOSFETはCPUクーラーに取り付けてある。最近のCPUは100W程度の発熱があるので放熱性能に不安はないが,空気の流れを考慮した設計はした。

3.授業での利用 「平行電流が及ぼしあう力」

  (1)ホルマル線を使った実験

  物理Uの教科書にある実験&観察「平行電流が及ぼしあう力を観察しよう」をこの装置を電源として利用して行った。  教科書にある図と同じような形状に,直径0.5mmのホルマル線を板に取り付けて電流を流した。教科書では線の間隔は数mmとあるが,おおよそ1cm程度で実験した。

 上の写真は約10A流したときのホルマル線の様子である。真ん中が電流ゼロで,同じ向きに電流を流した場合と逆向きに流した場合を示す。  電流が逆向きに流れる場合反発力が働き,線の間隔が広がるが,広がるほど磁場が弱まるためにほどほどの所でバランスする。電流が同じ向きに流れると引力が働き,線の間隔が狭まる。間隔が狭まると磁場は強まるので,さらに間隔は狭まりついには接触する。

(2)アルミ箔を利用した実験

  細いホルマル線での演示実験は見づらい。やはり工夫が必要である。そこでアルミ箔を1cm幅の短冊状にして見やすくした。  実験装置は写真6のように組み立てた。この実験では逆向きに流れる平行電流に働く力を観察するのに利用する。  クリップを重りとしてアルミ箔に張力を与え,電流を流す前は平行にピンと張った状態になる。電流を流すと斥力が働き,2枚のアルミ箔が中心が膨らむように広がる様子が容易に観察できる。また,しばらく重りで張力をくわえておくと,アルミ箔のシワが伸びて重りなしでもピンと張った状態になる。この状態で電流を流すと変化がハッキリわかるようになる。  アルミ箔はホルマル線のように絶縁されていない。この実験で定電圧電源を利用する場合,途中で箔がショートすると過大電流が流れてしまう。また接触抵抗の増大があれば電流値が下がってしまうのでなかなか電流は安定しないはずである。定電流電源にするとこのような不安定要素が無くなり実験しやすくなる。