スリット幅と回折縞模様

 水波実験装置を使うと波の回折を視覚化することが可能である。回折はスリット幅が波長と同程度になると目立つと説明してきた。しかし,水波実験装置を使った実験では,より細かな変化までもが観察出来てしまうので,観察結果を生徒に正しく説明するには,少し詳しい回折現象を把握しておくことが必要になる。次の写真は水波実験装置を使って,波の回折をスリット幅を変えて観察した時のものである。デジカメの露出の違いがあったので,スリットに入射する平面波の波面の明るさがほぼ同じになるように補正した。

 

 教科書の解説に関する記述を見ると,”波長に対する隙間の長さが小さい方が回折の程度が大きい。隙間が小さいほど回折波は円形波近くなり,波は障害物の陰に回り込む”と説明している。しかし上の写真の回折を見るとこの説明だけでいいのか疑問が残る。

 スリット幅を15mm固定にして,波長を変えたときの回折模様が横の写真である。
 水波投影機の設定値は
    水深  2.2cm
    波の速さ 20cm/s 
 波長の測定方法
 水面下
43.4cmLEDをおいて投影。水面上14.3cmにおいた透明アクリル板にトレーシングペーパーを敷き,20Hzの周波数で波源を駆動,映し出された波面の間隔を物差しで測定,長さを1.37倍した。

 横の写真は上から13Hz26Hz39Hzの平面波を入射したときの回折の様子である。なお,露出の違いは補正してある。

 それぞれの波長はスリット間隔を1として,1,1/21/3となる。この条件で回折縞が生じる方向(相対強度が0になる方向)は表のようになる。上図は相対強度の変化を次の式で計算しグラフ化した。

 I:相対強度 d:スリット間隔 λ:波長 θ:スリット中心からの角度

 写真から,13Hzでは回折縞は生じていない。26Hzでは±30°方向に波が打ち消されている線が見える。またそれ以上の角度にもコントラストは低下しているが波が回り込んでいる様子が観察できる。39Hzでは両脇に2本の波が打ち消されている線が見える。
 スリット間隔を一定,波長を変えて回折の様子を観察する方法は,波源の性能を考えると波長を変化させる範囲が写真の実験程度が限界である。また波長を変える度に振幅を最適値に調整する必要がある。振動数を
50Hz程度まで上げると,波源の振幅を上げすぎると,共振が生じるためなのか不明だが,壁面の反対側に平面波の波面が浮かび上がってしまう。

 


 この写真は振動数を26Hz一定にして,スリット幅を変えたときの回折の様子を撮影した。スリット幅を変える以外は測定条件は同一にしてある。なお写真は同一条件でトリミングし彩色した。
 スリット間隔は上から順に
3mm7.5mm15mm30mm60mmである。波源とスリットまでの距離は75mm,水深22mmの条件で実験した。
 水波
26Hzの波長は7.7mmであるため,上の2枚の写真には回折縞らしきものは写っていない。
 スリット間隔を広げていくとスリットを通過する平面波(波面が平行)は振幅が大きく,あまり減衰せずに進行している。従って,回折して回り込む波とこの波の振幅の違いが際だってくることから,スリット幅を広げていくと回折の程度が小さくなってくる。
 教科書の記述とは逆の説明であるが,水波実験装置の実験で回折を観察するとこちらの方が適切であると思う。

 この実験を通して回折をどのように解説したらよいか悩むが,やはり回折縞の出来る理由を説明する必要があるだろう。少なくともd≦λなら回折縞が出来ないことは解説すべきである。
 図の波の距離の差が


 この関係を示すときに打ち消される。A点のすぐしたから出る素元波とこの関係にある波はM点の下に必ずある。従ってθ方向に進む波は打ち消される。
sin
θ≦1であるから d≦λならばθは存在せず,従って回折縞は存在しない。