磁気テープを利用した運動の記録装置
 
日 的
 初歩の力学実験で利用されている記録タイマーは連続して物体の運動を記録でき、さらに実験の方法、解析の手法を生徒に学ばせるには大変効果的であるが、計測・解析に時間がかかり過ぎる、定量的な実験には精度が足りないなどの問題があり、おのずと実験可能を項目は限定されてしまう。そこで記録タイマーと同じ形式で、物体の運動を連続的に記録し、しかも操作性・精度を改善し、限られた授業時間中に効果的に各種の実験・測定ができるようにした装置を製作した。

 

概 要
 この装置は波長約1mmの正弦波を予め記録しておいた磁気テープを運動体に取り付け、磁気読み取りヘッドで信号を再生し、単位時間毎に波数を計数する方式で(写真1)、波数の計数は機械語で書いたプログラムによりパーソナルコンピュータを利用する。テープを運動体に取り付ける点、および連続して運動を記録する所は記録タイマーと同じだが、コンピューターを利用するので移動距離・速度・加速度の解析は即座に計算可能で、しかも測定精度も高く、授業展開にあわせて測定結果を一覧表にまとめて生徒に与えたり、グラフにして提示したり柔軟に対応できる強みがある。また、ソフトで波数を計数するので、デジタル入力1ビットがあればよく、特別にインターフェイスを装着する必要もなく経済的である。
 
教具の製作方法
1.磁気テープについて
 実験に用いる磁気テープはオープンリール用、厚さが36〃の物がよい。さらに表面が鏡面仕上の高性能タイプのテープは摩擦も少なくよい結果が得られる。磁気テープに録音する信号は2トラックのオープンリールの録音機を用い、テープ速度19cm/Sで190Hzの正弦波を耳で聞きながら歪まない範囲の最大レベルで録音する。周波数の高い正弦波を一録音すれば原理的に測定精度は向上するが、実験で波数を読みだす時に、読み落しが増加して必ずしも精度は上がらない。なお波長が1mm程度ならテープの表裏を間違えて優っても、まったく問題なく波数を計測できる。
2.信号読みだし装置
 磁気テープから信号を読みだす装置は写真2の様にアクリル板でつく り、図1の増幅回路を組み込み、TTLレベルまで信号を増幅する。磁気ヘッドはカセット用の物を使ったがオープンリール用が入手できればなお良いだろう。アクリル製のケースは簡単にテープをガイドする構造で蓋をしてテープをセットし、軽くヘッドの両わきに押さえつけ磁気ヘッドとテープの接触を保たせている。
3.波数計数ソフト
 波数を計数するソフトは機械語によるサブルーチンで測定時間間隔、測定回数を指定すると配列に計数値をセットする。図2に機械語のプログラムとその使い方を示す。ただしその他の部分はBASICで記述した。なおこのソフトはPC−8801mkII用で、背面パネルの9ピンDサブコネクター1番端子、7番端子(GND)間に入力された信号の数を計数する。
 操作方法および実験結果例
 1.波長の補正
  この装置の精度は録音された信号の波長に直接左右される。録音機のテープ速度変化でワウ・フラッターは十分に小さいので、波長の相対的な変化は小さく、波長の絶対値を実験に先だって測定しておけば誤差は除ける。そこでまず正確に長さを測ったテープの両端Iにリーダーテープを接続、装置にセットし、測定が終了する前にテープを引き抜き波長を測定する。測定の結果得られる最大移動距離がテープの長さに一致すれば波長は1mmであるが、必ずしもそうならず、1mのテープを引き抜いた時、1.034mと測定された。従って波長は0.967mmであったことになる。以後実験では距離をこの値をもとに計算すればよい。なお実験中に働く摩擦は数gであり、テープの伸びによる誤差は考える必要はない。
 2.操作方法
  測定の開始に先だって、測定時間間隔、測定回数を セットし、測定開始のキーを押しておけば、テープが動くと自動的に測定を開始する。
 3.実験結果例
  記録タイマーで可能な実験はこの装置でも行える。 初めの2秒間歩き、次に走ってもらった50m走の記 録を図3に、重力加速度の測定結果を表1に示す。
 
 
 

 

 
 
実践効果
1.重力加速度は物体を下に投げつけても、投げ上げても自由落下の時と同じ大きさであることを、質問に答えて演示したが、生徒は驚きの目で見守った。実証する事は極めて効果的で、言うまでもなく大切である。
2.生徒の50m走の記録で、人が発生した力や仕事率を概算させたが、身近な例で興味を引かれ、指導項目の定着率もよかった。
3.かなり正確な重力加速度の測定ができるので、空気の抵抗の影響等についても触れることができ、理解が深まった。

   

 
〔50m走の記録〕野外で実験し信号をテープレコーダーに録音、教室で再生し解析した。
表1〔重力加速度測定結果〕装置で生じる摩擦約4gfをもとに、補正をするとg=9.78m/S2となる。
質量lKgの鉄製の円柱を重りとして使った場合の重力加速度の測定結果 
 
その他の補遺事項
・現在PC・8801/mkII、さらにPC−9801VM2用のソフトがある。すべて標準装備のインターフェースで動作する。増幅回路、波形整形回路は電気部品店で扱っており1500円位で入手できる。また、この記録装置の製作費用は、コンピューターを別にすれば3〜4000円でできる。