ヒートポンプ実験装置
栃木県立宇都宮清陵高等学校
中 村 修
1.はじめに
ペルチェ素子を使ってヒートポンプの働きを理解する実験装置を製作した。投入した電力量以上の発熱が得られる。コンプレッサーを利用したヒートポンプと違ってペルチェ素子は,可動部分が無く手軽に扱えるが,投入した電力量Wに対して,低温側から高温側に移動させた熱量Qはあまり多くはない。しかし高温側にはW+Qの熱量が供給されるため,電熱器で加熱したときより大きな熱エネルギーが発生する。投入した電力量以上の発熱があることを算出すると,とても不思議に感じる。
2.ヒートポンプ実験装置
実験装置の構造はペルチェ素子を中心に2枚のアルミニウムでサンドイッチした構造である。高温側−低温側の離隔をつくるためペルチェ素子の両側に3mm厚のアルミを貼り付け,7mmの間隔を得た。ペルチェ素子は周りからの熱の流入を防止するため発泡スチロールでおおってある。素子とアルミの接触面にはシリコングリスを塗布し熱接触を良好に確保した。また2枚のアルミ間を4カ所でねじ止めしてペルチェ素子を固定した。
電源装置(12V,3A以上),温度計(分解能0.1℃),ヒートポンプ実験装置,ストップウォッチ,ワニ口クリップ
・温度計をそれぞれの水槽に固定する。水温を測定する。
・電源装置を8Vにセットし通電。電流は約3Aになる。(十数秒で定常状態になる)
・水をかくはんしながら1分ごとに水温を測定する。5分後電源装置をOFFにする。
・水の熱容量=2095J/K アルミの熱容量=48J/K 合計 2143J/K
生徒実験は5分間である。時間をかけると気温との温度差が広がり,周囲からの熱の流入量が目立つようになり誤差が拡大する。上記グラフをみても,時間が長くなるとグラフが横に寝てくる。なお,上記グラフの近似曲線の傾きは仕事率(時間を秒になおして)になる。
13分間 高温 36.2W 5分間 高温 38.8W
となる。ペルチェ素子に25.6Wの電力をつぎ込むと,14.6Wの吸熱がある。高温側では吸熱と電力をあわせた大きさにほぼ等しい36.2Wの発熱となっている。一見25.6Wが36.2Wに増えるので,エネルギーを増幅できるのではないかとの錯覚に陥る。
利用したペルティエ素子は4cm×4cmの大きさの最大吸熱量80Wのタイプである。
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型番
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Vmax
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Imax
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Qmax
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サイズ
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T150-85-127
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17.5
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8.5
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80
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39.6×39.6×3.94
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この実験が妥当な値を示しているのか,以前行ったペルチェ素子に関する実験データを基に検証した。
Qtot = 吸熱量 + V×I V,Iはペルティエ素子へ加えた電圧,電流
である。ペルティエ素子の電圧-電流特性を実測してグラフ化,近似曲線を求めると2次式が最も誤差が少ない。その式より抵抗値を求めると
電流i[A]を流したときのペルティエ素子での消費電力wは
ペルチェ素子を使って電子冷蔵庫を製作したときは出来るだけ温度を下げようとしたが,電流に比例した吸熱量がペルティエ素子にあったとしても,電流の2乗に比例してジュール熱が増加するので,むやみに電流をふやしてもかえって温度が下がらないことを確認している。
ヒートポンプの実験では,投入した電力に対して出来るだけ多くの熱量を低温側から高温側に移動させたい。従って最も効率的な電流値で実験することが大切になる。
ペルチェ素子に流す電流を変え,温度差ゼロ,5,10,15,20,25,30の時の吸熱量を実測した。各温度差での吸熱量から各電流での温度差xと吸熱量yの近似式を求めた。その近似式は
近似式を基にして,吸熱量と流す電流の関係を温度差ごとにプロットした。
最大吸熱量を示す電流値は温度差によって変化している。13分間の予備実験での温度差は17℃である。熱抵抗などを考慮するとペルチェ素子の両面の温度差はそれ以上あり,20〜25℃の温度差は妥当な値です。このときの吸熱量は電流値3Aで 24W〜14Wである。
仮に熱抵抗が無く,ペルチェ素子の両面の温度が水温に等しければ,3Aの電流(25W)で17℃の温度差ならば30W程度の熱を移動できる。実験装置の良否は水とペルチェ素子の間の熱抵抗を小さくすることにつきる。
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