水波実験装置,波源の製作

1.はじめに

  水波実験装置では波源の製作に一番時間を費やしました。試行錯誤の結果小型のスピーカを利用することに落ち着きました。さらにどのような方式で波面を投影するか,検討しましたので紹介します。

2.波源の製作

 汎用物理実験装置とは別に以前から水波実験装置用の波源を作り続けていました。水波実験装置の波源として,板バネの先端にモータを取り付け,モータの軸に先端におもりをつけたゴム管を取り付けた単純な波源を利用していました。機構が単純ですが,うまく波が観察できるように調整するのが意外に難しく,電圧を可変して回転数を調整し振動数を変化させますが,バネの持つ固有振動数と共振しないと振幅が稼げず苦労しました。

   

 そこで一号機(写真1)として,クランクを利用してピストン運動をする機構の波源を製作しました。固有振動数からの束縛を回避でき,振幅を稼げると目論んだからです。同時に,電気接点をもうけて,リレー(半導体リレー:SSR)を動作させOHPのランプを点滅させて,動く波が止まっているように見せる事にも挑戦しました。しかし,振動数を高くできず汚い波しかできませんでした。

 二号機は,おもりの上下動で振動を発生させる仕組みに戻しました。ただし,逆回転する2つの軸におもりを取り付けたので,左右の振動は打ち消され,理屈の上では上下動しか生じないはずです。おもりにはナットを利用した。ナットの数で振幅を調整する方式をとりました。

 実際に利用した結果,十分実用になる波源でした。しかし,基盤に利用したプラスチックの板が持つ固有振動数に影響されるため,波源の振動数を自由に可変することは困難でした。

 波源の振動数を自由に変化できる装置を作りたいと考えていましたが,モータを利用した機構では難しいことが分かりました。そこでスピーカの往復運動を利用した波源を製作しました。スピーカに手持ちの小型スピーカ(0.2W)を利用し,振動板をはぎ取り,中心部分に接着剤でプラスチックの板を取り付け,そこからアームをのばして先端にまち針を取り付けるメカニズムにしました。

 スピーカを駆動するために超低周波発信器を製作し,振幅と振動数を別々に設定できるようになり波源を固定しているスタンドなどを含めたシステムの固有振動数に,スピーカの振動数が一致すると生じるがたつきなどを,振幅を調整すると回避できるようになりました。

 スピーカのボイスコイルを利用した市販品がないか調べてみると,大変高価な装置が販売されています。しかし,汎用品を使って少し工夫すれば自作は簡単にできるはずです。

 今回開発した水波実験装置では,できるだけ高い振動数で波を起こせる波源が必要になります。装置を小型にするためにはどうしても避けては通れません。今までの装置では振動数を高くすると波が流れて見えなくなりましたが,パワーLEDを点滅することでこの問題を回避しています。

 波源用スピーカは最大入力1W以上の口径5cm程度の物を探します。エッジが柔らかく,コーン紙のストロークが大きい物がベターです。壊れたラジカセから取り外すと良い物が得られます。私は秋月電子で購入しましたが,手ごろな値段のスピーカはなかなか見あたりません。オーディオ用のスピーカは理想的ですが,1個2千円程度するのでなかなか手が出ません。

(1)点波源                  

 波源は振動板の大きさに合わせて丸く切った3mmのベニヤ板を接着剤で図のように固定してスペーサーを介してアームを取りつけます。接着剤はボンドG17を利用しました。

 

(2)平面波用波源

 平面波用の波源はスピーカを2個使って図のように製作します。波源の質量が大きくなるのでアームをのばしてその先に水をたたく部分を取りつける方式では振動数を上げることが難しくなります。

  

 

3.水槽の製作

(1)天井に波面を投影するタイプ

 水槽は図のように組み立てました。アクリル水槽は9mmのベニヤで作った箱の上にのせてあります。左右にはベニヤの押さえがあるので滑り落ちることはありません。ベニヤはホームセンターで購入した300mm×300mmのカットベニヤで,そのまま組み合わせて箱にしました。

 アクリルの水槽の中には反射波を防止するために,目の細かい金網を短冊状に切って,その周りに包帯を巻いた構造の吸収装置を設置します。

  製作した波源は図のように箱の側面に取りつけて利用します。左右2か所取りつけるスペースがあります。平面波用の波源は振動する部分の質量が大きいのでがっちり取りつける必要があります。

 ドップラー効果の演示実験を行う場合は,ベニヤ板に取りつけた波源を,ステージの上に置き,片隅にあけた穴に釘を刺して,この点を中心に回転させると簡単にドップラー効果の演示ができます。このとき波源のアームは長めの方が先端部分は直線運動に近づくので良いと思います。

 光源は箱の中に置くだけです。前後左右に動かすことで,投影する天井の場所を変えることができます。また何か台の上にのせると天井に投影される波面が大きくなります。なお箱の中は反射がないように黒くペンキで塗りました。できれば黒いフェルトを張った方が効果的です。

 

(2)プロジェクションテレビ方式

 高い振動数の波源が利用できるようになったので,思い切ってもっと小さな水槽を製作しました。100円ショップで購入した200mm×145mm×92mmの積み重ねコンテナを2段重ねにして,アクリルで作った250mm×200mm×40mmの水槽を乗せた小型装置です。この装置は光源と水槽の距離が200mm程度で,天井には大きな波面が投影されます。40Hz程度の振動数の波を発生させれば十分な数の波面が表示され特に問題はありません。

 この程度の大きさになれば,持ち運びは大変容易です。暗幕があれば普通教室まで実験装置を持ち込んで実験ができると思います。水槽に張る水の量も1000mg程度ですみます。水槽が小さいので鏡で45度光を曲げて,スクリーンにプロジェクションテレビの用に投影するのも容易にできます。また,この大きさなら,保管も容易で,物理室の棚に置けるはずです。

 

                      

 図のような構造で,鏡は30cm×45cmのベニヤ板にDIY店で購入した金属光沢の反射シートを貼り付けて利用しました。スクリーンはトレーシングペーパーを貼り付けてあります。

 小型装置にこのダンボール箱を被せるよう方法でセッティングします。蛍光灯をつけた普通の教室の中でも十分に波面を観察できるので便利です。

 スクリーンに投影される範囲は,約10cmの幅です。広い範囲を投影しようとすると大きな箱が必要になり,小型にする目的に反してしまうのでこの程度で妥協しました。写真は50Hzで波源を駆動したときのものです。小型水槽なので振動数を上げなければ十分な数の波面が表示できないデメリットがあります。