速度合成シュミテーションゲーム
1990年

1.製作の動機

 生徒が力と運動について誤解しているのと同じ様に速度変化と移動距離の関係についても間違った認識を持つ生徒が多い。例えば、鉛直投げ上げの時間と速度のグラフから実際の運動(位置と時間の関係)をイメージ出来ず、速度がマイナスの領域になった場合、位置もマイナスになっていると考えてしまう。そこで速度-時間のグラフから運動の様子を再現するプログラムをつくった。

 プログラムはX,Y速度成分の時間変化のグラフ(1次元)から2次元の運動を再現する。2次元の運動は日常体験から視覚的にとらえやすい。そこで経験的にとらえている「曲線」としての放物運動を再現するためにX,Y成分を試行錯誤して入力することで、速度成分の物理的側面の理解に役立つと考えた。つまり放物運動の場合、鉛直方向は一定の割合で速度が変化し、水平方向が速度が常に一定、として再現できれば、2方向の運動の違いから力が働く場合、働かない場合の速度の変化の仕方を対比でき、慣性の法則、運動の法則の確認が出来る。

 

2.プログラムの使い方               

図1

 水平,垂直速度成分を数値で入力するのではなく、図1の様にカーソルキーでカーソルをグラフ上を移動させ、リターンキーを押すことで、グラフを鉛筆で描く要領で入力する。図1の入力モードのグラフ表示は、水平垂直両成分間の対応がつきやすいように通常のグラフを横にした形式をとったが、図2は通常のグラフの形式に直して表示させたものである。

 図3は入力した2つの速度成分に従って合成した運動の軌跡を表示させたものである。印刷物では物体の動きを示せないのが 

 図2

 

図3

 残念であるが、実際の画面では両成分間の相対的な大きさに比例して物体の動きを再現する。また速度、加速度ベクトルを表示させることも出来る。なお図3は放物運動の軌跡を加速度ベクトルと共に表示さたものである 

 

3.発展       

 このシュミレーションゲームは速度成分をグラフの形式で入力するので、数式を持ち出さなくとも定性的に速度変化を把握していれば表現できる。つまり数学的取り扱いが極めて高度な内容であっても、物理的な内容を定性的に理解していれば、物理法則の仮定を立て速度成分を入力し、その結果合成された運動を実際の運動と比較することで簡単に、仮定した事柄の検証をすることができる。具体的に、物体に速度に比例した抵抗(2乗か1乗かは深く考えない)が働く場合の放物運動はどうなるかを考えてみると。

  

 まず水平方向は等速度運動であるから、空気の抵抗があれば徐々に速度は小さくなり遂にはゼロになるが、その割合は速度が大きい時ほど大きいであろう。

 鉛直方向の運動は上昇する時は空気の抵抗と地球からの引力の両方を受けるから速度が変化する割合(減少)は大きい。最高点を過ぎると下向きの速度が増加していくが空気の抵抗のため終端速

度まで徐々に増加していって遂には等速度運動になる。以上の様に定性的に把握したものを速度のグラフとして入力し(図4)、合成して得られた結果が図5である。大まかな仮定であったが実際に抵抗を考慮した放物運動の軌跡と大変似通った形が得られる。

 

参考文献  原島鮮著 【力学1】裳華房  P50