周波数分析器の製作(音と耳に関した実験)
                                       1990年
 

 ア.「製作」

 音の高さ・音の強さ・音色を音の3要素と言う。音の高さは基音の周波数として、音の強さは振幅として説明する事は容易であるが面白味はすくない。音色の違いを調べるためにはスペクトルアナライザーが用いられる。例えば、バイオリンとフルートの音の違い等、高調波の成分から数量的に調べることが可能なので、身近な色々な音色を調べたり楽しい実験が出来る。しかし、スペクトルアナライザーはとても高価で手に入らない。そこで、簡単な周波数分析装置(スペクトルアナライザー)を製作してみた。基本原理は、OPアンプを使いLC同調回路をシミュレートした回路の中心周波数を電圧可変にし、出力波形を整流・平滑してレベルを測定する。周波数設定電圧をスイープする事でスペクトルを得る。

 上の図が周波数分析器の回路図である。ステート・バリアブル・フィルターを利用してバンドパス・フィルターを実現している。Qは約50である。フィルターの中心周波数の変更はcdsの抵抗変化を利用している。cdsは光量により抵抗値が変化するのでLEDに流す電流により中心周波数を変える。この回路では特性の似かよったcdsのペアーを選別する必要があるが、50%程度の確率でペアーが組めた。また、cdsの抵抗値変化の直線性改善のための比較用にcdsをもう1本使うが、百倍程度の抵抗値変化であれば直線性は良好であり使用しなかった。LEDに流す電流を制御するため定電流回路を用いた。0v〜5vの設定電圧変化で0〜50mA変化する。スペクトルをマイコンに取り込んだり、レコーダーで記録するために全波整流回路をもうけた。ボリュームで制御電圧を変化させ同時にレコーダーのX軸の電圧とし、全波整流回路の出力をY軸電圧とすると色々な音色のスペクトルを記録できる。

 イ.「性能評価」

 周波数変換を行う一般的なスペクトル・アナライザーと違い、このアナライザーは基本的に単一同調回路であるため、通過域(BW)一定で分析することは出来ない。Q一定であるから周波数が高くなると分解能が悪化し、逆に周波数が低いと通過域が狭まるためピークを拾えない可能性がある。

 そこで100Hzの方形波を分析して性能を探ってみた。右のグラフが分析した結果である。周波数設定電圧を8ビットのDACで出力し、順次A/D変換して取り込んだ。DACの1ビットに対応する周波数は約5Hzであり、100Hzの基本波のピークが低めにでている。高い周波数領域では分解能が悪化し、またcdsの非直線性が若干目だつ。しかし理論的に予想される方形波のスペクトルが概ねえられ,音声、その他の音色を手軽に分析するには十分な性能である。

 ウ.「利用」

 物理1A、項目「音と耳」の内容に関して、「日常生活における可聴音の、音の高さ・強さ・音色、反射・吸収等の性質と聴感との関係を扱う。またオーディオ機器、楽器等がいかに活用されているかを扱う。」とある。生徒が最も日常親しんでいる題材を選んで物理を展開するところであり、興味・関心も高いはずである。その中で、生徒にとって最も関心が高いのは音の音色であろう。従って、効果的な実験をすべきである。

 授業で“音色”を実験として扱う場合、波形をオシロスコープ、高速A/D変換等で観察するだけでは、定性的にならざるおえない。また波形の違いを定性的にでも識別するのは案外難しい所がある。さらに、音色は波形で決定されると考えることも出来るが、必ずしも正確ではなく異なった波形でも同じ音色に聞こえる場合もあると言う。人間の聴覚は音を周波数分析してスペクトルとして聞くと言われている。

 以上の様に人間の聴覚と音色の関係、実験としての取扱を考えた場合、音色を周波数領域で調べる、つまりスペクトルの違いで色々な音色を識別することが適当であるし、ある程度定量的に音色の違いを表現できる。肉声、色々な楽器の音色の違いを調べることはたいへん興味深く楽しい実験である。                        

 右のスペクトルは男声の“あ”の音声を周波数分析したものである。周波数分析をする時、10数秒の時間を要するので連続する音しか分析できない。しかし母音のみ分析しても各音の違いを比較したり、声の高さの違った生徒の分析をしても面白い。

 左のスペクトルは上から純に“いうえお”を分析したもので、比較的“い、う”のスペクトルが単純にみえる。そこで図から読みとったピークの周波数比、強度比に従って100Hzと150Hzの正弦波を2:1の割合でミックスして音色を聞いてみた。しかし、この様に単純には音声を合成できない。ここに示したスペクトルはA/D、D/A変換を備えたコンピュータで取り込んだが、ボリュームで電圧を変化させXYレコーダーに記録する方が簡単であり、演示効果も高いと思う。