直流モータの教材化
1990年

 力と運動を、直流モータを実験題材として学習するアプローチの仕方は、生徒の生活体験、学習経験を考慮すると効果的であると思う。

 

 円運動を指導する場合、直流モータを利用すれば、力のモーメント、角加速度、慣性モーメント等は実験を通して自然に理解できる。勿論基本的なモータの特性が分かっていることを必要とするが、直流モータの特性自体も学習対象として興味深いので、「直流モータが発生するトルクは、電流に比例する。」を確かめる実験は行いたい。

 この特性は上図の簡単な実験で検証できる。モータに流れる電流とバネ計りの値をグラフにプロットすればトルクと電流の関係は簡単に調べられる。

 電流値でトルクが制御出来ることがモータを力学実験に利用する上でのポイントちなる。モータの回転が変化しても流れ込む電流が一定であれば、一定のトルクを発生することを利用して、例えば一定の力で力学台車を引っ張る実験に、定電流電源からモータに電流を供給して糸を巻取る装置があれば、ゴムひもの代われに利用できる。一定の力の発生を電流で確認でるので、例えば巻取る糸の長さと電流の積算値で仕事の量が求められるなど色々な実験に応用も出来る。

 そこで、直流モータに関する基本的な特性をインターフェイスを全く必要としないパソコンを使った測定方法を紹介する。

 ア.実験方法

 上の図はモータの特性を測定するための実験回路である。モータのACタコジェネレータの出力はPC-9801のRS-232CのCS信号ピンに接続してあり、この端子の信号の周波数を測定する。機能はすべてソフトで実現しておりインターフェイスはいらない。 

(注意)電源装置について

 一般的なのは定電圧電源であるが、定電流電源装置はIC(3端子レギュレーター)を使って簡単に製作できる。

【実験結果】

次の実験を行い基本的な直流モータの特性を求めた。

@直流モータに一定電流を流した時の回転速度(角速度)の変化。(一定トルクの場合)

A一定電流を流し、色々な慣性モーメントの物体を取り付けた時の回転速度の変化。

B一定角速度で回転するモータを電線を短絡させた時、電線を開放した時のモータが停止するまでの回転速度の変化。

C一定電圧を加えた時の回転速度の変化。

D12Vの電圧を加えてモータを起動した時にモータに供給された電流の変化。

以上の実験結果を以下に示す。

【結果】

@一定電流0.1、0.125,0.15,0.175,0.2、0.5Aをモータに流した場合の回転速度(角速度)の時間変化を測定したもの。なおモータは無負荷の状態。

 

 上の図は回転速度の時間変化を、それぞれの電流値別に測定したものをプロットしたものである。グラフに描かれた直線は回転速度の変化が時間に対して比例関係にある部分のデータを用いて最小自乗法で計算した直線。

 右の図は、最小自乗法で得られた直線の傾き、つまりこの場合は角加速度と電流値の関係をグラフにまとめたもの。

 この実験から直流モータに一定電流を流すと回転速度の変化は時間に比例して増加することがわかる。さらにその変化の割合、角加速度と流す電流は比例関係になることがわかる。なお、左上のグラフで約150回/秒以上に回転速度が増加しないのは、電源装置が定電流電源として動作できなくなるためで、この時電源装置の電圧は30V近くまで増加した。

A一定電流0.2Aを流し、67,139,211,427g-cm2の慣性モーメントの物体を取り付けた時の回転速度の時間変化を測定した。                         

 

 上の図が回転速度の時間変化を各負荷の慣性モーメント毎に測定したものをプロットしたもの。@の場合と比較してかなり乱れた直線のグラフになっているが、この理由はモータ軸の油ぎれと、負荷の重心が軸とわずかにずれているために生じる”がた”のためである。

 測定結果をみると、やはり回転速度の変化は時間に比例して増加する。そこで各直線の傾き(角加速度)に対する負荷の慣性モーメントのグラフを描いてみると右上のようなグラフになった。このグラフから明らかに一定電流を流した場合、回転速度の変化の割合(角加速度)と負荷の慣性モーメントは反比例の関係になっていることがわかる。

 

B一定速度で回転するモータを、電源端子をショートさせて回転を止めた場合と、電源端子を切って回転を止めた場合のモータの回転が止まるまでの回転速度の時間変化を測定した。短時間に回転が止まった方がショートさせて停止した場合の回転速度のグラフ。

 

 グラフから読み取れるように回路をオープンにしてモータに流れる電流をゼロにすると回転が止まるまでに約2秒かかる。ところが、モータの端子をショートして止めた場合は約0.2秒と10倍も速く停止しする。

Cモータに加える電圧を4V〜20Vまで2V刻みで変えて回転速度の時間変化を測定した。下のグラフから順に4、6、〜20V。

 この測定から一定電圧を加えた場合に、モータの最高回転速度がこの電圧に比例することがグラフから読み取れる。

 モータが回転を始める所、つまりグラフのはじめの部分に着目すると、加えられた電圧に無関係にほぼ同じ時間内に最高回転速度に達していることもわかる。@の実験結果と照らし合わせて考えると、一定の回転速度になるまでは、加えられた電圧が高いほど、大きな電流が流れていると推察される。

Dモータに12Vの電圧を加えた場合の起 動時に流れる電流を400mS間測定した。なおモータが定速で回転し始めた時点で流 れた電流の値はわずか53mAであった。

 グラフをみると起動時に約1Aの電流が流れることがわかる。徐々に53mAに落ちているが、この変化は一定電圧を 加えた時の回転速度の変化に対応している。ところでこの実験では一定の電圧(12V)が加わっており、電圧×電流×時間はエネルギーになるから、このグラフの面積に12をかけ算すれば電源装置からモータに供給されたエネルギーになる。つまりこのエネルギーはモータの回転体に蓄えられたことになる。またモータが一定の回転速度で回転するとほとんど電流が流れなくなるが、この電流は摩擦等で消費される。このことは一定の回転速度で回転する場合は外部からエネルギーの供給が必要でないことを意味する。

 

注意 実験Aにおいて、負荷の加重のために摩擦が増加して最高回転速度が実験@と違ってしまってる。